銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 辺りは一面星の海 幼い少女の泣き声響く とある車両のお兄さん 切れた眼差し周りに向けて 誰も近寄らせはしない 何も知らない泣き虫少女 お兄さんへと歩いてく 切れた眼差し少女に向けて 拳握ったお兄さん 涙流した泣き虫少女 お兄さんへと飛び込んだ 泣き虫少女をお兄さん 優しく包んで微笑んだ もう大丈夫と微笑んだ あと8駅で終点だ
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 蒼い竜胆の咲き誇る浜 老夫婦が手を繋ぐ 隣り合わせに肩を寄せ 右手と左手を差し出して 言葉も交わさず座っている 振り返れば永遠の写真 白い封筒は絆の証 擦り切れた封蝋に指をのせ 過去の物語に想い重ねる 旅はどこまで続くだろう 貴方とならばどこまでも ほんのり紅く頬を染め 老夫婦が手を繋ぐ 銀河鉄道の終わりは後7駅
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 見渡す限りの褐色の大地 故郷を追われた先住民 口ずさむは民族の誇り 涙を浮かべて悲しめど 帰る場所などどこにもない 我らの長はもういない 弓をひく右腕も 遠い故郷へ置いてきた 長の眠る我らの故郷 あてなき旅のその果に 我らの未来はあるのだろうか 民族の証に手を当てて 母なる大地に祈るのみ 銀河鉄道の旅はあと6駅
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 嵐吹き荒ぶ丘の上 恋人亡くした青年が 我が身も裂けよと窓開け放つ 髪も衣服も乱れども その心には勝らない 哀しみ叫ぶ青年の 耳元過ぎる風の中 愛しい人の声がする 心揺さぶる歌声が 希望失くして飛び込んだ されど君に逢えたから 旅を終えたらもう泣くまい 君を忘れず生きていく 終点まではあと5駅
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 燃え尽き果てた灰の街 感情失くした一人の少女 無垢な心を鉛に撃たれ 木々が愛した歌声は 汚れた兵器に殺される 首元垂れるネックレス 優しく煌めく水晶は 愛する仲間の最後の願い 生きる希望を表す暗示 少女を守るは彼らの愛 少女が守るは彼らの意志 感情すべてを失えど 少女は笑顔を忘れない あと4駅で、旅の終わり
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 命途絶えた月の海 此処で生きゆく定めだと 鳥捕り俯き涙を流す 美味しい命を食べずして どうして生きていられようか ならば、それは、汚れた体と 私は汚れた命なのだと 目深に帽子をかぶった彼は 月の海へと降り立った 生命のない闇の中 冷たさゆえに祝福されて さようなら、と彼は言った 良い旅を、お幸せに あと3駅で終着点
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る 美しく碧き惑星Ω この星の多様性には驚嘆する 余りに美しく、余りに虚しく 希望に溢れた悲しい星 孤独な少年は降りると言った 何故だ?と問いかけずにいられない それでも孤独よりは良いんだと言う 袂を分かつ少年に伝えた言葉は 「変わらない事があるなら、僕等は同志であり続ける事」だった さよならの汽笛を鳴らし あと2駅、車窓から碧き星が消えるまで
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銀河鉄道はゆっくりは走る 乗客を乗せてゆっくり走る そこは自分自身と向き合う鏡の星 キミはここで降りる?それとも 最後の星に行くのかい? 鏡の向こうの僕 僕はここにいるよ 自分が許せないんだ 許せるようになったら そっか…人はどんな些細なこと でも罪を背負う生き物 キミがキミを許せるときまで ボクはキミと向き合うよ 君は優しいね だってボクはキミだもん 遠くで発車の汽笛が聞こえる
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銀河鉄道はゆっくり走る 乗客を乗せてゆっくり走る きらきら輝く未来の星 明るく光る銀河鉄道 残る乗客あと二人 寂しげな少年 儚げな少女 静かな車内 終点を知らせる車掌の声 二人はそのまま動かない 私の存在は誰にも必要とされていないの 少女は言った 僕は罪をつぐわなければいけないんだ 少年は言った ゆっくりゆっくり扉は閉まる もう扉は開かない 銀河鉄道はゆっくり走る 今日も誰かを乗せて
- 完 -