カリッとした刹那、溢れ出す肉汁に舌が喜びを感じた。
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うんまい!店主、この肉どこの肉を使ってるんだい?絶妙な柔らかさが堪らないねえ!
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( どこの肉を使ってるかだって? そんなの教えるわけないじゃないか? それを知られたら、こっちは捕まっちまって、店もたたまないといけなくなるじゃないか? )
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おい、聞いているのか?それにしてもうまいねえ。こんな肉食べたことがないよ!なんの肉なんだい?
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(なんの肉、ねえ。仕方ない、話をでっちあげるか) いやぁ、お客さん。実は肉は普通の肉なんだ。ちょっと料理法に工夫がしてあるんですよ。
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へえ、そうなのか! この色といい、いい焼き加減だねえ! 調理法はもちろん秘密なんだろう? それにしてもいい肉だ!
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ええ、そうなんですよ。なんせこの肉はひ…あ、いや、火加減が難しくて。 (あ、あぶないあぶない、うっかり肉のことを喋ってしまうところだった…)
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ははぁ、なるほど火加減! 美味い肉を作る鉄則だよなぁ。どんなに高級な肉でも、焼き方次第じゃ肉そのものの旨さを殺しちまう!
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カラカラと店の戸が開く音がする。 きっと満足そうに客は腹をさすりながら暖簾を潜って行ったのだろう。 「ご馳走様、また来るよ!」 そう言い残して。 いやいや、アンタは俺達と同じく次の食材だから。 もう次は無いんだよなぁ……。 「さて、仕入れに行きますか!」 そう言って店主は、嬉々として去って行った客の後を追いかけて行くのだ。 冷蔵庫の奥消えゆく意識の中、遠くで悲鳴が聞こえた気がした。
- 完 -