おっと失礼。 そこのキミ。 そーだ、今この文章を読んでいるキミだ。 キミにいいものを見せてやろう。 特別だからな。 今日は機嫌がいいんだ。 こいつを見てくれ。 そーだ。もっと近くに来い。 よく見えないだろう? どうだ?こいつをどう思う? ワイルドだろぅ??
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そう言って男は、とてもワイルドとは言い難い自らの粗末な恥部を屹立させながら迫って来た。 正確には長いトレンチコートとサングラスをした、脂っこく薄い髪の毛の男が、無精ヒゲに包まれた端正とは言い難い顔立ちで、上記の台詞を言いながら近寄って来てコートをはだけた。 そこには痩せ細って皮膚のたるんだみっともない裸体に、人の神経を逆撫でするかの様な生え方の毛があった。 いや、うん。まあ、アレだ。変態だ。
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とりあえず警察に連絡を入れた私は、iPhoneをいじりながら時間を過ごした。 「近づかないでくれるかな。あんたのようなやつと同じ空気吸ってるだけでも、本当は我慢できないんだからさ」 男はやがて、目を潤ませて事情を語り始めた。 私はノベルノーヴェの閲覧に忙しかったが、一応、耳は塞がないであげていた。
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そして粗末な恥部をトレンチコートに押し込めながら男は私に語りだした。 「僕はさ、むしゃくしゃしてこんなことをしてしまったけど実は偉いんだ。」 私はそれを聞いて、へぇと軽く相槌をうった。 男は続けた。 「だからこういうことをしていることを誰かに知られてしまっては困るんだよ。 だから頼む、このことは誰にも言わないでくれ!黙っておいてくれればなんでも願いを叶えてあげるから!」 と男は涙目で訴えてきた。
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「おっさん、何でもって簡単に言うね。」 私はiPhoneをいじる手を止めて変態オヤジを睨んだ。 「できるよ。僕にできない事はないんだよ。」 じゃあ何でお前は今この状況に陥ってんだよ?と再びiPhoneに視線を落とし呟こうとしたその刹那、私はその言葉の総てを飲み込んだ。 ん?つまりこれはこの男が望んで生まれた状況なのか? 無意識に私の人差し指はスリープボタンを押していた。
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「じゃあさ」 私は一拍置いて言った。 「私と契約して、魔法少女になってよ」 これで今月のノルマは終わる。
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「魔法少女だって何だって僕はなれる。それくらいには偉いんだ。そもそもココで君と会ったところから僕の計画通りなのさ」 「なんかどーでもいい。魔法少女になってくれさえすれば」 最近なぜか希望者が激減した魔法少女。契約は足で稼ぐのが伝統だとか。 「契約の詳細は?」おっさんが尋ねる。 「それは動画で説明する」 iPhoneにパスワードを入力し、魔法少女の動画を再生させた。
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あれ、動画が動かない。 そうだ、魔法少女動画のパスワードは音声入力しながら変身認証が必要なんだっけ。 めんどくさいが、これも契約のためだ。 コホンっと軽く咳払いをすると、私はクルクル回りながら、 「マジョルカ、マジョリカ、カンカンコレール!」 音声入力でパスワードを入力する。 すると体が眩い光に包まれて、服が消え真っ裸に… その時、クソやかましいサイレン音が辺りに響きパトカーが突っ込んできた。
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「通報がありました。猥褻物陳列罪の罪で現行犯逮捕します。」 「あ、待ってください。通報は間違い…」 という私の手首に手錠がかけられた。 「すごい速着替えだが、なんで裸になったりしたんだね。ちょっと署で反省しなさい。」 「え?私じゃなくて、そこのおっさんが変質者なんですよ!?」 「僕は変質者じゃありません。彼女がいきなり魔法少女になってくれって言ってきて」 「二人とも署までご同行お願いします」
- 完 -