川沿いの夜道を急ぎ足で家に帰る。 少し前の電灯の下に、ポツンとおじいさんが佇んでいる。地図らしきものを片手に、目だけが行ったり来たり。 こんな時間に道に迷ったのかなって、ちょっと不思議に思いつつ、通り過ぎようとした。 すると、『あのぅ すみません』案の定、呼び止められた。
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「この辺に、木瀬雨さんてお宅ありませんかねぇ」 えっ!? 「それ、ウチの家ですけど…何かご用ですか?」 「ひょ!?君はもしかして木瀬雨 悟君かね⁉」 「!?」 見知らぬじいさんに名前を出され、動揺するが悟にふと、ある記憶がよぎる。 ま、まさかこの人は…!!
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そうだ、間違いない。小学生の時の担任の永田先生だ。卒業してからかれこれ20年は経つだろう。しばらく前に定年退職したことは、風の噂で聞いていた。 「先生、いったいどうされたんですか?」 「悟君、いささか面倒なことになってしまってね。いま少し時間あるだろうか?」 「はい、それは構いませんけど。うちはすぐそこなので、お茶でも飲んでいってください」
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「実は‥女房が出て行ってしまったんだよ」 そう先生は持っていた地図で目頭を抑えた、僕は慌ててハンカチを渡すと軽く頭を下げそれを先生は受け取る 依頼か‥ 僕はファインダー「探し屋」だ、先生はきっと何処かでぼくの噂を聞き尋ねて来たのだろう。 「探して‥くれるかね?」 悩んだ、人は意思がある、失踪には理由があるのだ、だから厄介な仕事。 「料金かかりますよ?」 嫌味にならない断り方をしてみた
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「君が高いというのは聞いていたよ。」スッと卓上に札束が差し出される。 報酬としては十分過ぎる額だ、それだけ深刻な事態なのだろう。僕はそれを優しく制すと、肩を落とす先生に言った。「お代は成功報酬として頂きます。」 パッと跳ねるように顔を上げた先生はよろしく頼むよ、ありがとうと何度も礼を言った。そして馴染みの店や嗜好品等、手掛かりになりそうな事柄をデータにまとめた。 ーさぁ、厄介な仕事の時間だ。
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先生から聞いた女房の情報は以下の通り。 ・名前はマキ ・身長は140cm台 ・髪は黒のロング ・貧乳 ・カラオケが好き ・16歳 ……孫娘ではなく、女房の情報である。 これはこれで事件だろ……あの先生、ロリコンだったのか……尊敬してたんだがなあ。 それにしても、16歳の女房……想像するだけで 何でもない。僕は仕事に私情は挟まない主義だ。 さて、まずは調査の基本から行こうか。
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早速、助手の晴流川を呼び、永田先生がボソボソと話しながらメモしてくれた女房情報の紙を見せた。 「恩師の依頼だ。…しっかし嫁さんが16歳とはなあ…ハハハ正直話聞きづらくて」 「木瀬雨さん」 「なんだよ。下心出すなよ、恩師の嫁さんなんだからな」 「あの、この走り書き、16でなくて、70ですよね?」 え。 よく見ると、……そう読めないでもない。 「何年助手しても、俺のこと試すんだもんなあ木瀬雨さんは」
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時々こいつで遊んでいる事は否定しない…が、今回は深読みのし過ぎだ。 「いや…16歳だとさ」 沈黙が、1、2……13、14… 「でえぇッ⁉」 りある幼妻黒髪つるぺただとぉ…と叫ぶ何かがツボに入ったらしい晴流川は捨ておく。 「携帯は生きてるかな…電話してみるか、位置情報を探るか…」 僕が現実的な案を考え始めたところで、晴流川は突然、復活した。 「16歳で小柄なマキって娘ですよね?多分俺、知ってますよ」
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「マキ…」 先生は皺だらけの顔を涙でグチャグチャにして、16歳の少女に呼びかけた。 晴流川マキ、助手の実の妹が、俺の恩師の嫁だったとは。 家出の原因は不明だが…。 「ううん、もう良いの…」 「ごめん、ごめんなマキ…」 もしかして二人は、このバカップルなやり取りをしたかっただけなのか…? 「さ、木瀬雨くん、今日は私の驕りだ!みんなで飲みに行こう!」 「…報酬は、それで良いですよ」 やれやれ。
- 完 -