青薔薇の道のアリス

「やあアリス。青い薔薇の咲き乱れる茨の道と七色の光る胞子を放つ毒きのこの溢れる道、君はどちらを選ぶ?」 そう言って白い牙を剥き出しにしてニタニタと笑う新緑色の猫。色々疑問はあるけど、とりあえず私はアリスじゃない。 「アリスじゃないわ」 「この世界に来りゃあ、みぃんなアリスさ、アリス」 「わけのわからない理屈ね」 「オレの存在もこの世界もわけのわからないものだからね。さあ選びなよ、アリス」

きくらげ

12年前

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「そうね、青い薔薇がいいわ。青い薔薇なんて見たことないもの。」 「それならあっちだよ。」 猫は首を思いっきり右へ傾けた。 「ありがとう」 そう言いかけた時にはもう、猫の尻尾は消えている!猫はニタニタと笑い続けている。そしてとうとう顔だけという時になった。 「あぁ、アリス?青い薔薇の花言葉知ってるかい?」 「いいえ?」 「いや、いいんだ。楽しい物語を、アリス。」 そう言うと猫は完全に消えてしまった。

aice

12年前

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チェシャ猫はいつもこう。肝心なところが抜けている。 私は青い薔薇の茨の道を進んだ。茨は大きく、道を塞ぐようにしてうねっている。青い薔薇の姿なんて見えない。 ひどいもんだわ。 目をそらすと茨の脇に糸で作られたハンモックがあって、体の大きな芋虫が寝ころんでいる。 「もしも茨を踏まねばならぬものなら、もとより踏むのは良いが、踏まずにすむものなら、みだりに踏むべきではない」 芋虫は先回りして言った。

aoto

12年前

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みだりに踏むべきではないと言われても、こんなに鬱蒼と茨が生い茂る所で…。 「痛っ!」 注意を十分していたつもりだったが足に棘が引っかかってしまった。 「おーっと!これは大変だ!家で手当が必要だぞ!」 突然変な帽子を被った男に腕を引っ張られ、森の奥に引きずりこまれた。 「ちょっと!あなた誰なんですか⁈私は大丈夫です!」 「みんなは僕のこと、イカれ帽子屋って呼ぶんだ。手当の前にお茶はいかが?」

momomo

12年前

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「手当ての後にお茶にしていただきたいわ」 そう言う間にも私はティーパーティの席に座らされ、帽子屋はお茶をドボドボと溢しながら注いだ。 「ホントに?本当にお茶が後でいい?」 「勿論よ。折角だから早く傷を消毒してよ」 私は下品と知りながらもテーブルの上に片脚を乗せた。すると、 「おい!起きろヤマネ!無作法な娘がダンスの催促だ!」と帽子屋はテーブルに飛び乗り小さな居眠りヤマネとワルツを踊り始めた。

真月乃

12年前

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私が呆れて席を立とうとすると、帽子屋は右手を差し出して言った。 「君が踊らなくちゃ!」 「私、足に傷があるのよ。手当てをしてくれないの?」 帽子屋は一瞬目を丸くし、仕方ないといった表情でヤマネと一緒に手当てを始めた。 「ところで青い薔薇の花言葉を知ってる?」 ふと猫の言葉を思い出して聞いてみた。 「青い薔薇?青い薔薇はあり得ない。咲いていなかっただろう?不可能なのさ!」

neg

12年前

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青い薔薇は存在しない… じゃあ、どうしてあの猫は青い薔薇の花言葉なんて聞いてきたのかしら。やっぱり、猫の言うことなんてあてにならないわね。 考え込んでいる間に手当は終わり、 「ほら、約束だよ?おどろう!」 私は踊りに巻き込まれてしまった。 一通り踊るとウサギが視界の端に映った。 そうだわ!私はウサギを追ってきたんだったわ。 イカレ帽子屋達に別れを告げウサギを追いかける。

リッチー

11年前

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ウサギならさっと通れる狭い道も私には一苦労。なんとかうさぎを見失わずに追いかけていると開けた場所に出た。 迷路のように入り組んでる垣根。所々に埋まる赤い薔薇の木。 薔薇をお世話してるこの人達なら知ってるかしら? 「ねぇ、あなた達は青い薔薇の花言葉を知ってる?」 近くのトランプに尋ねる。 「女王様に首をはねられるぞ!」 大声で叫んだ。 ビクリと肩を揺らすと横目にウサギが駆けていくのが見えた。

ハイリ

11年前

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「それは奇跡だね」 やっと捕まえたウサギがクスクスと身体を揺らす。 「青薔薇は奇跡だからね。つまり君が青薔薇なのさ」 「奇跡」 呟けばウサギはますます愉快そうに笑う。 「奇跡の道、君が描く軌跡。それが青薔薇」 「でもね」 カツ、と背後に足音。 振り返り、その人物を見て、あ、と私は。 私の意識はそこで終わった。 「『奇跡』は同時に『不可能』なのさ」 ゴロ、と転がったソレにウサギは笑いかけた。

フタシロ

11年前

- 完 -