むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 ある日、おじいさんは地元企業の株主総会に、おばあさんは最近ハマっているヨガ教室に出かけていきました。 更衣室でおばあさんが着替えをしていると、知り合いの富子さんが声をかけてきました。 「この前、夫婦でパリに行って参りましたの。よろしかったらこれどうぞ。」 そう言って、なんとも大きなエッフェル塔の置き物を差し出しました。
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「まあ、すてきな置物。ありがたくいただきますわ」 おばあさんは家に帰ると、貰ったエッフェル塔をこたつの上に置きました。 「それにしても随分と大きな置物だねぇ。中に人が一人入れそうじゃのう」
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といっておばあさんがしげしげ眺めていると、エッフェル塔の中から何やらヒソヒソ囁くような声が聞こえました。 「あらあらまあ不思議だこと。本当に中に誰かいるみたい。」 おばあさんが置物にぴったり耳をくっつけてよくよく聞いてみますと、 「…サヴァ?」 「サヴァ。サヴァ?」 「サヴァ。」 どうやら中にいる者は一人ではなく、何人かの声が口々に喋り合う声が聞こえるのでした。
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現れたのは7匹に見える仔山羊でした。 「クラムボンは笑ったよ」 「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」 はっ! 仔山羊は二人に見つかったことで震え上がり、部屋の各地に隠れました。 一匹めは本棚の中に、一匹は机の下に、一匹はキッチンに、一匹はベッドの下に、一匹は時計台の下に・・・ 最後の一匹はいいました。 「おばあさん、私は鬼退治に向かいます」 「そんな物騒なこといいから、ゆっくりしていきな」
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「えっ?しかし、外の世界では鬼が悪さをして皆困っていると聞いておりました」 「どこで聞いたんだ。鬼なんて居ないよ」 仔山羊は、ぽかんとして、しばらく右往左往していました。混乱しているようです。 他の仔山羊も、そろそろとおばあさんの近くに寄ってきました。 「あんた達…何食べるんだっけ?」 おばあさんは、しばらく考えて、新聞に入っていたチラシを取りました。 「紙…食うかい?」
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仔山羊は激怒した。 「そんなペラッペラなの食えるか‼もっと…そう、こんなカンジのをくれよ」モグモグ…… 「あっそれ黒屋義子さんからの手紙…」 「え……」 「……ハァ、仕方ないね。」 そう言っておばあさんは何やら手紙を書き始めた。 『さっきのお手紙、ご用事なに?』 「さ、ちょっとそこのポストまでワタシのランボルギーニを飛ばすよ。乗ってくかい?」 しかし 玄関を開けるとそこは雪国だった。
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おばあさんは、あまりの出来事に呆気に取られてしまい、その場で立ち尽くしました。 おばあさんは、理解できる範囲を超えてしまい、この事は、気にしないようにしました。 状況を受け入れたおばあさん。 「わしのランボルギーニは、どこじゃ!。」 おばあさんが、キョロキョロしていると、 「シャンナローー!。」 頭上から、妙な声する。 ドンッ! 見上げたおばあさんの額になにかが直撃しました。
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それは、とても大きなうすでした。 「母蟹の仇取ったどー!」 うすの言葉と共に現れ歓声を上げる蜂、栗、牛糞、蟹。(各々寒さに震えている) しかしおばあさんは雪に埋まって、何とか生きながらえてました。 「ばぁっかもん!猿はうちの三件隣の家だわい!」 そうおばあさんが怒鳴ると、彼らは去って行きました。そして、手紙をポストへ届ける策を改めて練るため家に戻ると、なんと、いつの間にかそこには火星人がいました。
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一目で火星人だと分かったのは額にネームペンで『火星人』と書かれてあったからです。 おばあさんには火の字が左右逆に書かれてしまっているのを指摘する元気すらありませんでした。 火星人はゆっくりとおばあさんに近づいて行き、その小さな口を動かしました。 ハイ、オツカレサマデシタ その言葉の意味を理解する前におばあさんは光に包まれ、気がつくと目の前にはテレビにこたつ、いつも通りの生活が広がってました。
- 完 -