「馬鹿野郎!よりによって顔面吹っ飛ばす奴があるか!これじゃお目当ての女かどうかもわかりゃしねぇ!」 説明しよう。ジョージとクエンティンはマフィアに金で雇われたケチな犯罪者で、幹部を殺した女暗殺者を始末しろと命じられている。家に忍び込んだまでは良かったのだが、クエンティンが玄関から入って来た人物の顔面を確認もせずにショットガンで撃ってしまったのだ。ジョージが、死体のズボンを下ろした。 「男だ。」
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「ど、どうするんだよ!」 ジョージは真っ青になって叫ぶ。人違いで別人を殺してしまったことがボスにバレれば、間違いなく二人の首がとぶ。 「ど、どうしよう……とりあえず、この死体は隠そう!」 「でも何処に?」 ジョージとクエンティンはキョロキョロと辺りを見回した。すると、ちょうど良さそうな大きさの押入れを見つけた。 「あそこに隠そう」 押入れの扉を開けた途端、生臭い匂いが漂う。 「し、死体が入ってる」
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しかもよりにもよってその死体は、 「顔面が吹っ飛んでやがる……」 それはもう惨いくらいにグチャグチャになっている。クエンティンの拵えた死体の方がまだ幾分かスマートな仕上がりだ。 二人以外の誰かによる殺しがあったのか、家庭内でのいざこざが原因なのか、この死体の所以はハッキリしないが、 「ちょうどいいや、同じ所に隠しちまおうぜ」 「いやおい、ちょっと待て。こいつは……」 死体の体型は女性のソレだった。
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「おいおい、一体どうなってんだよ。こっちがあの女じゃないのか」 ジョージは頭を抱える。 一方クエンティンは冷静だった。 「いいか、ジョージ。俺たちは目当ての女を仕留めたんだ。そこに」男の死体を持ち上げる。「こいつが来た。殺すしかなかった」 と、その時、死体のジャンパーのポケットから何かが落ちた。 拳銃だった。
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落ちた拳銃が鈍い輝きを放つ。クエンティンの脳も。俺は脳筋野郎のジョージが嫌いだった。 「プラン変更だ。まず俺が女を見つけた。その女をお前はトチって吹き飛ばしてしまう」 言いながらジョージから散弾銃を取る。 「銃声を聞きつけた男に拳銃を向けられたお前は、男も吹き飛ばす。だが」 拳銃をジョージの頭に向ける。 「お前は男と相打ちで死んでしまう。これで仕事終了だ」 引金を躊躇なく引いた。
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パンッ 乾いた音が響く。 ジョージの額から真っ赤な鮮血が滴り落ちる。 「良い銃だ」 一言呟くと、早速クエンティンはジョージの手に散弾銃を握らせ、男には拳銃を握らせることにした。 と、その時、男の指に蛇を象った指輪がはめられていることに気付く。 間違いない。銃での殺しを専門とする殺し屋のカールだ。こいつも雇われていたのか。 ん? おかしい。 女を殺ったのがカールなら、なぜ女の顔は…
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またも部屋に銃声が響き、クエンティンの意識はそこで途切れた。 床には四つの死体が転がっている。先ほどまで喧騒の爆心地だった部屋に、いつもの静寂が訪れた。そこに、深い溜息の音が響く。クエンティンの頭を撃ち抜いた女の溜息だ。 この新たな女は、唯一ある女性の死体に近づくと、死体が履いていたジーンズのポケットから財布を抜き、そこから運転免許証を取り出した。その顔写真は今より少し若いが女自身のものだった。
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「やっぱり、マフィアの手先はダメね。死体を見たら、まず身元を確認しなさいよ」 折角仕込んでおいた運転免許証を確認されなかったことに、女暗殺者のジーンは憤慨していた。 「上手くいけば死んだことになって、こっちの世界から足を洗える筈だったのに。結局、私が殺す羽目になっちゃったじゃない」 実の姉を自分の身代わりとして殺しておきながら、平然とする女。 しかし、そんな彼女すら驚くことが起きた。
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目の前が急に暗くなったことを理解したジーンであったが、自分が今どんな状況なのかは理解出来なかった。 「いや、これはなかなか面白かったな」 ロサンゼルスのバーでそう呟いた男の名はバン。 彼には平凡な趣味があった。 「『暗殺者ジーンの苦悩』3ドルの本にしてはよく考えられているじゃあないか。これだから読書は止められないのだ」
- 完 -