椪雀軒

新しい食事処を見つけた。 【椪雀軒】(ぽんじゃんけん) それがその店の名前だ。築40年はゆうに越しているであろう、いかにも昭和の佇まいの中華料理専門店。 そしてその店の大きな木製の看板にはこう書いてあった。 「貴方のお悩み、相談にのり〼」 ここ、中華料理屋だよね? 私は疑問に思いつつ、店の暖簾をくぐった。

13年前

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「さいしょはぐー!じゃんけんっ!」 いらっしゃいのかわりに聞こえたのはかわいらしい声。隣で幼稚園児らしき男の子が手を振り上げて静止していた。 「ぽんっ!」 つい反射的に言ってしまった。そしてわたしの手はグー。男の子はパー。 「へへっ。僕の勝ちー。じゃあごはん食べてってね」 ……じゃあってどゆこと?と聞く前に壁紙に目がいった。 『じゃんけんに勝てば悩み解決。負ければ食事よろしく』

naomi

13年前

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そういうことか。ま、どっちにしろ食べるつもりだったから。 と、店内を見渡したがテーブルにも壁にも、メニューが無い。 とりあえずラーメンだな。 「すんません、ラー「へいお待ち!」トン!早!目の前にラーメンが置かれた。 さては…ラーメンしかないな。 兎に角早速いただく。 「お、なかなかウマ「じゃんけんぽん」 男の子に不意を突かれ、また負けてしまった。トン! 「お待ち!」炒飯が…テーブルに増えた。

真月乃

12年前

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とりあえず私は炒飯も食べてみた。 「これもおいs「じゃんけんぽん」 またもや負けた。トン! 「へいお待ち!」今度は餃子かい! もう今度は油断しないぞ! そう思い出、食べたフリをした。 「この餃子なかなかいk「じゃんけんぽん」 だまし討ち作戦成功だ! 今度こそ勝った! 「アッー!負けちゃったよ!じゃ、僕負けたから悩みを話してよ」 男の子が悔しそうに求めていた。 「私の悩みねぇ・・・」

12年前

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「最近ね、私がずっと片思いだった会社の上司がいたんだけどね」 「ジョーシ?」 「お兄ちゃんみたいなものよ」 「なるへそ」 「その人が九州の方に転勤することになったの」 「ふむふむ」 「私はその人に自分の想いを告白するか、それとも胸の中に想いをしまって笑顔で見送るか迷ってるのよ」 「こくはくすればいいのに」 「怖いのよ。最後に嫌われたら私はこれから先もずっとあの人に嫌われたままよ」

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「ふんふん。じゃあ、きらわれないていどにこくはくすればいいんだよ」 「どういうこと?」 「どういうことか聞きたい?」 「もちろ「じゃんけんぽん!」 「あーっ!!」 数分後、私の前には餃子と小籠包とエビチリが並んだ。 「や、やっと勝った...」 「ちぇっ。まだデザートもあるのに」 「ちょっとそれも気になるけど、それよりさっきの続き!教えて!」 「はいはーい」

さはら

12年前

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「簡単じゃん。ここに連れておいでよ」 は?なんでここ? 「無理だよ、誘えないーって恥ずかしいし… きっと転勤準備で忙しいだろうし…」 「……あのさ、好きなんでしょ? 少しの勇気も出せないなら、さっさと あきらめなよーじゃんけーんポン」 負けた…。 杏仁豆腐がテーブルに並んだ。 一口食べたら…甘くて美味い。 「じゃんけんさ、グーばかりだね。 手を開きなよ…グーじゃ掴めないよー」 はっ‼

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そうだ...次いでに心も。 「ごちそ「じゃんけんポン!」 負けた。 でも、今度は袋に入ったゴマ団子だった。 「これはお土産、いっぱい食べてくれたから!」男の子が満足そうに渡してくれた。 「ありがとう」 「あいこでショ!」 私は【椪雀軒】を出て会社に向かった。あの人はまだ会社にいるはず。 ガチャ... あの人はデスクの整理をしていた。 「あのー、一緒にゴマ団子食べませんか?」

blue

12年前

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「あれ?帰ったんじゃなかったっけ?ゴマ団子美味しそうだな。折角だし頂こうかな」 「じゃんけんポン!」 ゴマ団子を差し出す前にじゃんけん。彼は反射のように手を出した。 私はパー。彼はグー。私の勝ちだ。貴方の心を掴みに行くパーだ。 「明日一緒にランチを」 彼は驚いた後直ぐ優しく笑った。 「そのためのじゃんけんか。いいよ、一緒に行こうか」 ガッツポーズ。あ、グーだわ!心を掴むグーよ。

ハイリ

12年前

- 完 -