扉を開けると、身体を真っ二つにしてしまいそうなほど巨大な斧が4つ交互に右へ左へと部屋の中を行き来していた。 どうやら、斧が中心を大きく逸れたタイミングを見計らって、部屋の奥にある新たな扉まで辿りつけなければいけないらしい。 やっとのことで、マグマの上にある岩場を跳んで進んだというのに。熱くない部屋のはずなのに汗がダラリと頬を流れる。 早くカラクリ部屋を進んで、囚われた姫を救い出さなければ…
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シュッ シュッ シュッ。 シュッ シュッ シュッ。 無機質に空間を只々行き交う4つの斧の不気味な擦音。 ーー今だ。 呼吸を止め、ひと思いで一気に駆け抜ける。 …ふぅ。 成功と確かな経験値の上昇を噛み締めた。まるで勇者になれた様な気分だ。だがもし0.1秒でも躊躇していたら死んでいたな。 …シュッ シュッ シュッ。 淡々と交差を続ける斧の擦音を背後に、垂れる汗で新たな扉を開ける手が滑る。
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扉を開けた俺は我が目を疑った。 なんてこった! カメだ。馬鹿でかいカメがこっちに向かってのそのそと歩いて来やがる! 咄嗟に身を隠す場所を探し周囲に目を走らせる。ダメだ。左手は壁。右手は崖。 ちっ。前に進むしかねぇみたいだな、、、。 くそったれ! こうなりゃ腹をくくるしかねぇ! あのカメ公を思い切りふんずけて、甲羅ごと蹴飛ばしてやろうじゃねえか!! 赤い帽子を被り直し、俺は地面を蹴った。
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ガタン。 ゴゴゴゴ……。 その直後背後と左から何かが動く音。 背後の扉がロックされ、逃げ道を完全に塞がれた! しかも左からは壁が迫り俺を崖下に押し出そうとしている。 俺に死に方を選べというのか? 冗談じゃない!カメと心中なんてゴメンだ! カメと壁の距離はどんどん近くなっていく。 そして目前で開かれる巨大な口! 俺は咄嗟に、途中で拾った緑色の木の実をカメの口に投げ入れた!
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やってみるもんだな。カメは甲羅姿になったぜ。ざまあねえな。 カメを通り越し、ゆらゆら揺れる浮き岩にジャンプした。 灼熱のマグマからは時折、火の玉が飛び上がってきて危険だ。 タイミングが重要だな。 (俺はこういうアクションは得意なんだ) 自分に言い聞かせ、浮き岩から迷路のような階下に飛び移る。 なんだ、人面岩が降ってきたぞ! ホラーすぎないか? ん、こんなところに茸がある。
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見るからに怪しい色をした茸だ。 (……そういえば、腹が減っていたな) いや、だめだ。 こんな所に生えている茸なんてどんな毒茸か分かりゃしない。 (…でも、一欠片だけ、なら…) 気持ちとは裏腹に手は茸が伸びる。 少しだ、少しなら大丈夫だろう。 覚悟を決め、小さな欠片を食べた。 ……あれ。 意外と…いけなくも、ない? そう分かると、残りも一気に口にする。 なんだ、普通の茸じゃないか!
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茸に怯えるなんて俺らしくなかったぜ。さっさと姫を救いに……。 ──っ⁉ なんだってんだ⁈か、身体が熱いっ!俺の骨が、筋肉が、皮膚が、急速に造り変えられていくっ!! 一回り大きくなった体躯を駆使し、俺は軽々と壁を壊し、カメをぶん投げ、マグマを超えてゆく。そして・・・。 煮えたぎる溶岩の上に架かる吊り橋に、マンマミーヤ!──奴がいた。 黄色い肌、鋭い爪と牙。赤いモヒカン。全身狂気。巨悪の王。
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バキ、ドゴッ 「ヤバいぞ・・・全然歯がたたねぇ」 口端から流れる血を拭い、相手を睨む。 相手はつまらなそうに、俺を蹴る。 まるでサッカーボールを相手にパスするように軽く・・・。それでも俺は100mくらい吹っ飛んだ。普通なら死んでる。だが俺は生きてる。 そうだ、俺は選ばれし者。 そう思った時、先程と同じキノコが生えていた。こいつを食えば、マ◯オ方式で強くなれるはずっ・・・ 俺はキノコを頬張った。
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パクッ 涙が出てくる。やった。やったぞ! 僕は夕食に出てきたキノコを全て平らげた。 嫌いなものを残すと怒られるからなぁ... 口の中のキノコを飲み込み、少しでた涙を拭うと、姫ではなくお母さんが嬉しそうな顔をしていた。 よく食べれました。偉いわねぇ!後はほうれん草だけよ。 やれやれ...次はほうれん草を食べると力こぶができる海兵にでもなりきるか。
- 完 -