超能力者。 そう、 何を隠そう僕は超能力者だ。 まぁ、頭の正常な人間ならまず信じないだろうがそれはそれとして聞いて欲しい。 大したことじゃない。 僕の持つ超能力の使い道についてだ。 はっきり言って、あってもなくても変わらないしょうもない能力だ。 空を飛ぶとか、火を操るとか。 どうせならそんなのが良かった・・・ こんなの見世物にもならない。
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「逆回転」 それが僕にそなわった能力だ。 もちろん、時間なんかは逆回転できない。できるのは所謂物理的な「逆回転」だ。 例えば少し出し過ぎたトイレットペーパーだったり、セロハンテープなんかを巻き直す時に便利。多少はエコロジイかもしれないけど、そもそもそれ等の物に、巻き直す必要性は最初から存在しない。更に、もとから逆回転の必要があるものは、大抵が勝手に巻き戻るのだから、僕の能力の使い道はとても少ない。
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こんな超能力が、誰かの役に立つことがないのはわかっている。だからといって、僕自身にもそれが当てはまるかといえば、必ずしもそうではない。 部屋中に置かれたオルゴールは、ひとりでに素晴らしい音楽を奏でてくれるし、メモ帳替わりの古風な巻物は片付け不要だ。 超能力が僕の役に立っているというよりは、超能力が役に立つように僕が生活している。
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誰かの役に立つために【超能力】というものが存在するのなら、多少なりとも人の為になるようなものを神様は授けてくれたのだろう。 だがしかし。 現実的には、物理的な逆回転をするだけの能力。日々の生活の中で、果たしてどれほどまでに重要であるかということについては、自分自身あえて触れようとしなかった部分である。これから数日間の間は、赤の他人に使ってみることにして、能力の必要性というものを確かめてみよう。
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帰り道の信号で待っていると、幼なじみの女の子がやってきた。ブレザーとローファーが似合っている。親しいノリで声をかけ、赤信号を下らない会話で楽しむ。彼女のボケにつっこみをいれると、スカートが回転し始めた。 どうやら、翻ったスカートに超能力が反応したようだ。 「何これ!」 「ごめん。そんなつもりじゃ」 慌てて、掴んだ信号機の柱。黄色になっていた信号は再び赤色を映し出す。 「こういう使い方もあるのか!」
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僕は別の使い方もあると喜び喜んだのだが、 結果は幼馴染からは真っ赤なモミジを頬に散らされ、信号機は翌朝、指示が無視されたとの情報が入り点検のため周辺の道路が一次的に封鎖されてしまった。 これは、社会的に迷惑をかけてしまうらしい。 いや、もっと良く考えれば何かやくにたつのではないだろうか?
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逆回転が必要になる場合とは、どんな場合であろうか。僕は考え込んだ。 逆、というからには、まず何かしらが回転している状態でないといけない。 回転するもの…回転寿し?いやいや、あの機械を逆回転させたところで誰が喜ぶんだ。 回転するもの…観覧車?いやいや、観覧車なんか逆に回転しても同じことじゃないか。 回転するもの…タイヤ?いやいや、そんな事をしたら大惨事になること間違いなし。 回転するもの…何だ?
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人の思考はどうだろう 回転思考、頭の回転が速い とか言うし・・・。 思考は脳という物体から生まれるのだからもしかするとマイナス思考をプラス思考に? 僕はさっそく試した。ふられて絶望を叫ぶ友達の肩を叩く。すると希望に満ち満ちた感じで「ドンマイ俺!」と叫びだした。 おお?!神か僕!!三人くらい立ち直らせたぞ?! 生つばを飲み込んだ。 まさかあの子の心も変わるのか? 友達から恋に変わるのか?
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「あの……」 彼女はまだ怒っていた。けれどもあれが僕のせいで起こったとは知らないので、どちらかと言えば恥ずかしさを怒りで紛らしているようだ。まずそこをリセットしてみる。 遠慮がちに肩に触れると────あれ?ますます顔が赤くなって、鬼の形相。 な、なんでだ?! 僕は必死に思考する。 そうか。感情と思考は違う。思考は頭でするもの。回路があって回転する。 心ってのは、巻き戻ってはくれないのだった。
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