細やかな雪が目の前に舞っている。 遠くには雪だるま。 昨日子供達が作っていたものだ。 とぼとぼと歩き続けると雪だるまが近づいてくる。 眉毛付きの黒い目をした口が人参の雪だるま。 目を合わせつつ通過する。 家がポツポツ建っている通りにその雪だるまは楽しげもなくさみしげもない顔で置かれている。 可愛いので少し戻って写メを撮る事に、パシャリ。
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シャッターは押せたが、手がかじかんでいるため上手く撮れたかどうか…。 「君も寒いのかな。」 なんの気なしにその無表情な顔に話しかけてみる。もちろん、返事も変化も見られない。 「うう。寒い。早く家に帰らないと。」 私は雪だるまの頭をつついて、背を向けて歩き出した。マフラーを巻き直し、少し大きめな手袋をはめた手を上着のポケットに入れた。 寒さを堪えながら歩いて五分、やっと家に着いた。
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外は寒かったな。…なんか、雪だるまのことが気になってきた…。 暇だし。見に行ってくるかな…。 五分後、、、雪だるまが見えてきた。 「君もやっぱりさむいよね。」 そう話しかけると私はマフラーを雪だるまにつけてあげた。 「溶けたりしないでね。じゃあ。」 雪だるまの無表情な顔が、和らいで 笑ったような気がした。
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次の日も雪だった。 外に出ると、何となく雪だるまのいる方に足が向いた。 相変わらずの無表情で、雪だるまがいた。 昨日あげたマフラーもそのままだ。 「やっほー。」 ポケットから片手を出して挨拶してみる。 返事は勿論なし。 「今日はなにかいいことあった?」 尋ねると、何となく雪だるまが下を向いた気がした。 視線を雪だるまの足元に移してみる。 すると、新たに雪うさぎが二匹、置かれていた。
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「おや、友達ができたみたいだね」 雪だるまの眉尻が下がったような気がした。 と、その時はじめて気づいた。 昨日はついていた人参の口がない。 「そうか、雪うさぎにあげちゃったんだね」 僕は近所のスーパーで人参を買い雪だるまに新しい口をつけてやった。 雪うさぎの前にも一本ずつ置いてやった。 「これで君たちは雪だるまくんの口を食べなくてすむだろ?」 また、明日も見にこようと思った。
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翌日は暖かい日だった。 雪だるまたちには辛い一日だ。どうしているかと心配しながら出かけた。 案の定、雪だるまは少し崩れて輪郭がぼやけて見えた。 雪うさぎたちも、ひとまわり小さい。 人参を食べたのにおかしいね。 なんてからかった後で、陽の当たらない木陰から、さらさらの雪を掬ってきて、皆の体を覆ってあげる。 これでよし、と。 彼らはすっかり綺麗になって、またのどかな冬の風景を見せてくれる。
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なんだか、この子達が人間のような気がしてきたので、首を振る。俗に言う妄想癖だ。いつしか、この雪達磨を相手に架空の恋愛を始めてしまうのだろう。(どうせ喪女ですよ、腐女子ですよ。) 雪達磨を見ていると不意に、懐かしくなってきた。上京して早5年、ここに来てからカツカツとこころが削られた。もっと素直な頃があった、けど。 「あー誰かいないかなー」 25の無い無い星人こころからの小さな叫び。
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冬は寂しい季節だと思っていた。木々は枯れ枝を震わせて、寒さが頬を打つ。 人生における冬も同じ。実りも華もない私は、このまま枯れていくだけなのか、と諦めつつあった。 でもこの雪だるまや雪うさぎ達は、冬にしか生きられないのだなぁ。 そう思うと、儚いような温かいような気持ちがして、冬がもう少し続くのも悪くないと思える。流石にずっとは困るけど。 私に必要なのは、そんな、冬を楽しむ余裕なのかもしれない。
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一人の青年がやってきた。スーツにトレンチコートという格好だ。 「よかったあ! まだ生きてた」 無邪気な声が妙に心を揺さぶる。雪で濡れるのもお構いなしに、彼は雪だるまの前でしゃがみ込んでスマホを構えた。お目当ては雪うさぎ。 「もしかしてこの雪うさぎは」 「恥ずかしいな。僕が作ったんです」 「私はその雪うさぎに餌をやっている者です」 おや、友達ができそうじゃないか。私の眉尻が下がったような気がした。
- 完 -