コトバの力

規則 一、外来語を口にしてならない 一、二分以上会話を途切れさせてはならない 一、嘘をついてはならない 真っ白な部屋の壁にはそう書かれていた。 剛が「何のゲームなんだよ!!」と叫んだ。 「おいお前、規則・・・」と言おうとした刹那、剛は震えだし、倒れこんだ。 あたりが状況を掴めずあたふたしているうちに、剛は全身の穴という穴から血を噴き出し、そのまま動かなくなった。

JPClown

13年前

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突然の出来事に一同は混乱が隠せなかった。 同時にこの規則を守らなければ死んでしまうという事を認識した。 剛はゲームと口に出したので規則をやぶった。心の中で思う分には問題ない、これからは慎重に言葉を選ぼう。 「花子、返事は一分以上かけてゆっくりで良いから会話をしよう。剛のことは無事に脱出してから考えよう。」 隣で一緒に震えていた花子に声をかけた。

jotakuro

13年前

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花子は帰国子女だった。 かなりまずい。いや、まてよ。 もし彼女の母国語が日本語ではなく、英語だと認識されているとすると、日本語が外来語になるのかもしれない。 いやいや、外来語という定義そのものが日本語を前提にしているのであればそうではないだろう。バイリンガルだと… なんて曖昧な規則だ! う。ではこれはどうだ?危ないか? ちょこっと試してみよう。 「ハナーコぉ」 (発音の問題かぁ?)

yoshihu

13年前

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かなり危険な試みであったが、身体に変化は見られない。 日本の言葉であれば、英語のような発音で口にしても大丈夫かもしれない。 外国人の名前はどうだろう? ふとそんな考えが頭をよぎったが、わざわざ危ない橋を渡る必要はない。 と、血まみれの剛を見下ろしながら、冷静に考える自分に気付いた。 「いいか、花子。絶対に片仮名の言葉は使うなよ!」 花子は何度も首を縦に振り、大きく見開いた目でわかったと答えた。

Sabretooth

13年前

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「ところで、花子」 時間を稼ぐ為にも、あえてゆっくりと話す。 「な……なあに?」 「腹が減っては戦さは出来ない。お前何か持っていないか?」 花子はあっと小さく呟き、鞄の中をかき回した。 「あった!ほらこれ、チョ……!ち、ちょっとしかないけど、えーと、ほら、とある木の実の種子を発酵・焙煎して主原料とし、砂糖や乳製品などを混ぜて練り固めた食品!」 そう言って花子が差し出したのはチョコレートだった。

きるこ

13年前

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チョコレートの甘さが張り詰めた精神を和らげてくれる。 「なあ、俺らがこんなバカげた事をさせられている理由ってなんだろう」 「私、今でも思い出すの」 花子は遠くを見つめて言った。 「日本に帰国した時の違和感。みんながデタラメな和製英語を話してた。歌の歌詞だってそうでしょ?サビになると突然英語になったり。結局、意味の明確な日本語より、耳触りのいい外国語で誤魔化している。みんな嘘をついているのよ」

旅人.

13年前

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耳触りのいい外国語……あれ……? 俺はここで違和感を感じた……。 そうだ、花子の綺麗な英語ならば、『外来語』とは認識されないのでは……? 違う違う。そうじゃない……何だ?この違和感は…… 「花子。一度だけでいい。何か英語話してくれないか?」 「え、ええ……いいわよ」 花子は流暢に英語を話す。しかし異変は起きない。 ……そうか。 「花子、今のおかげで分かった。 この部屋は……この部屋の意味は……」

ルーク

13年前

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花子の心が生み出した空間だったのだ。デタラメな和製英語を嫌う花子自身の精神が生み出した世界だと気づいた。無論、花子だって“和製英語を使えば殺される世界”なんてものを望んだ訳ではない。恐らく心の奥底にある小さな願いが具現化、肥大化した世界ではないかと考えられた。だとしたら俺は花子に何をしてやれるんだ? 『…なぁ花子』 『ん、なぁに?』 『告白されるならI love youと大好きだ、のどっちがいい?』

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「告白されるなら、大好きだ…がいいな。 I Love youだと意味も重いし」 少し考えて、花子は言った。 「そっか…。あの…花子。大好、、」 き、と言いかけたところで目が覚めた。 隣に花子が眠っていた。 ゲームに参加していた剛も寝息をたてて眠っていた。言葉は恐い。花子はきっと外国で自分の意志を伝えるのに毎日必死だったのだ。 美しい日本語、は難しい。だけど皆が起きたら沢山話をしたい。

- 完 -