ねえ、コックリさんて知ってる? 何だ知ってるのかー じゃあアレは? ポックリさん 知らない?えっ!うっそー 遊び方? 紙とペンとおはじきと髪の毛を用意して ポックリさんを呼び出すの やり方? 仕方ないなぁ 一度だけだからね まず紙に...
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「ぽっくりさん?」 昼休の職員室、国語の若槻先生と話していた。 「生徒たちの間で流行ってるんですよ こっくりさんに似てはいるんですがこっちは死んで欲しい人の名前を書くんです」 「それはちょっと穏やかじゃないですね」 「しかもそれだけではないんです 願をかける人は自分の身内の名前を一人書かないとだめなんです そして願いが叶ったときその身内も死ぬ」 「なんですかそりゃ 厳しく指導しないといかんな」
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「ま、そんな事タダの迷信ですからね。毎年毎年本当に飽きないもんですね。」 若槻先生は、そう言って笑いながら授業の準備にとりかかりはじめた。 そう。 僕も生徒たちのふざけたブームだとこの時までは信じて疑わなかった。 でも。 ぽっくりさんはいた。 キーンコーンカーンコーン 「山本先生!」 終礼のチャイムと同時にクラスの中でも大人しい田村カスミが僕の名前を呼んだ。 「おう、どうした。」
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田中は顔面が真っ青で眼が見開かれ、全身をぶるぶると震わせていた。 その様子に良い事ではないのだけ確信を得て、名前を呼んだっきり今にも倒れそうな田中の背中を撫ぜる。 「田中、どうした?」 ゆっくりと深呼吸をさせ、歯の根が合わないようにガチガチ言っていた田中は、荒い呼吸のまま漸く単語を発してくれた。 「き、きょう、教室で…!」 田中はそれ以上言えないとばかりに口を噤んで、崩れる様に泣き出した。
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「窓の外からから誰かが覗いていたんです」 「はっ?窓の外ったって、ここは3階だぞ」 「本当なんです!放課で騒ついてて、みんな気が付かなかったみたいだけど…私一人でいて、何か視線を感じて…見たら窓の外に不気味な男がニヤニヤ笑ってて……彼女を指差したんです!」 田中は思い出したのか再び震え出した。 「分かった、分かったけどな、彼女ってのは一体誰だ?」 その時、教室の後方から悲鳴が上がった。
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教室の後ろに目を移すと、有村桂花が窓から身を乗り出していた。 「危ないッ!!」 私は急いで駆けつけ、止めようと彼女の体を必死でつかんだ。 が、何者かに取り憑かれているのか、彼女の力とは思えないほど強い力で振り払われてしまった。 私が尻餅をつくと同時に、 有村桂花は3階から落ちていった。 乾いたコンクリートにドサっという気持ちの悪い鈍い音が教室にいながら聞こえた。 教室は静寂に包まれた。
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俺がふと後ろをむくと、 田村カスミが窓をじっと見つめながら ふっと呟いた。 「ポックリさん……。」 その瞬間ばちっと俺と目が合う。 「田村……。」 田村は耳を覆ってうずくまる。 「た、田村…。」 「先生、ポックリさんだよ…ポックリさんの呪いだよ。」 放課後俺は田村を自習スペースに呼んだ。 「何があったか話してくれ。何で田村はポックリさんって思ったんだ。」 ぽつりぽつりと田村は話し始めた。
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「言い出したのは有村さんでした。有村さんは自分の名前を書いていいからって。私が有村さんの名前を書きました。書かされたんです。身内の名前を書かなきゃいけないけど怖かったから、私のせいで私の身近な人が死んじゃったら嫌だから、亡くなった叔父の名前を書いて…。叔父は私が小さい頃に亡くなっていたし…」 田村はそこまで話すと、「窓の外にいたのは叔父かもしれない」と呟き、自習スペースの隅を見た後発狂し倒れた。
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その後有村の自殺に関する対応に追われた。いじめなど問題は無かったのか、担任として責任を果たせていたのか、などと責められた。 加えて田村カスミも亡くなった。彼女は、病院に運ばれ目覚めた数時間後に病室の窓から落ちた。クラスの生徒が2人も死に、ますます追及は激しくなった。 ー机の上に紙とペンとおはじきと髪の毛。僕と死んだ生徒の名を書いて。窓の外の彼女達に虚空に放り出され、僕もポックリさんの仲間入り。
- 完 -