高校生になった僕は幼馴染のアヤと廊下を歩いていた。 今日告白するつもり。 ダメかもしれないけど、何もしないで後悔はしたくない。 考えながら歩いてたら誰かにぶつかって転けた。アヤが慌てて僕を起こそうとしてくれた。 ぶつかったのは生徒会の風間ユキ先輩だ。僕はすぐに謝った。 先輩は厳しい口調で僕に言った。 「前を向いて歩きなさい!罰として私と付き合いなさい!」 「は、ハイッ」 僕は思わず答えてしまった。
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風間先輩って綺麗だけど怖そうなんだよな。付き合えって、別室で説教されるのかな。 「少し待っててくれる?」 アヤに一声かけて、先輩に尋ねる。 「あの、どこに行けばいいですか」 すると先輩は目を丸くしてまくし立てたのだ。 「はァ? 付き合うって言ったら決まってるじゃない。男女交際を始めるってこと。ステディな関係になるってことよ」 この人は何を言ってるんだろう。 僕とアヤは呆気にとられて顔を見合わせた。
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だが、言い返そうと口を開いた瞬間、拒否権はないから、と釘を刺された。 なんだそれ。何で急にこんなことになっているんだ。 第一、僕が好きなのはアヤなのに。 「良い、あなたはこれから私の彼氏になるんだから、その子とはくっつかないで」 先輩は、後ろのアヤを見据えてそう言った。 もう訳が分からない。 「急にそんなこと言われても、タクも困ります!」 それまで、僕の横で黙っていたアヤが先輩に食ってかかった。
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「なんであなたに関係あるのかしら。 私はタク君と話してるのよ」 「それは……私がタクのこと」 「はいはい、ストップ! 2人とも落ち着いて」 僕は慌てて一触即発寸前の2人をなだめる。 アヤも普段はおっとりしてるのに言う時は言うので油断ならなかった。 両者とも何か言いたげな表情だったが僕は無視することにした。 「先輩、すいません。僕は先輩期待には添えません。何故なら僕は好きな人が……」
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瞬間、先輩にギロリと睨まれて口を閉じた。 怖い!先輩怖い! 「言ったでしょ?あなたに拒否権は無いの」 どうしたものか、と僕は思った。先輩と付き合う訳には行かないが、上手く断れる気がしない。 「と、取り敢えず、どうしてそういう話になってるのか聞いてもいいですか?」 「付き合うのに理由が必要?」 「い、いえっ!」 思わず否定してしまった。 「けどいいわ、教えてあげる。都合がいいからよ」 はい?
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「つ、都合がいい…?はぁ?」 僕は今まで一度も先輩と話したことがない。 先輩がなにか得するような要素を僕が持っているのだろうか。いや、心当たりが全くない。 「先輩あの…何度もすみません…都合がいい…とは…?」 僕は最大限に謙遜して訊いた。 「要は中継ぎね。あなたと付き合えばあの人と接触する機会も増えることでしょう…まえまえから言おうと思ってたのよ…でも、ほら私生徒会とか色々やってるから時間がね…」
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もう訳が分からない。 この人は何を言ってるんだろう。 「あの人? 中継?」 「あなたが知る必要はないわ」 「ねえ、タク」 アヤが腕を掴む、かなり引いている。 僕も同じだ、変人だなとは思ったが、その次元じゃない。 正直、ここで延々と先輩に付き合う義理はない。 「そうですか。ならいいです。ではこの話はなかったことに」 言うや否や、アヤの手を引いて走り出す。 とりあえず逃げることにした。
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「ちょっと待ちなさーい!」 後ろから先輩の叫び声が聞こえる。 構うものか。僕たちは走って屋上へと逃げた。 「さすがにここまでは来ないだろう。」 屋上に着くと僕は言った。アヤは荒い息をしながら「タク、速すぎ」と笑った。 しばらく二人は無言だった。屋上には僕たち以外誰もいなくて、静かだった。 「アヤ」 自分の心臓の音が大きく聞こえる。 景色を見ていたアヤは振り返った。 「何?」
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「僕と付き合って欲しいんだ!」 ストレート過ぎただろうかとアヤの顔を見れば「よろしくお願いします」と花が咲いたような笑顔で言った。 「待って!あの、タクくん…お願いがあるのよ」 屋上に入ってきた先輩に怪訝な顔をしながら、何ですか。と返事をする。 「私、あなたのお兄さんが好きなの。だから、協力してくれない?」 「最初からそう言ってくださいよ」 僕が困ったようにそう言えば先輩は照れたように笑った。
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