Backstabber

あの舞踏会の後、国王が王子の見初めた娘を捜索するのに触書きを出すことは想定内だった。 ガラスの靴を持って国中を巡る大臣一行は私の家にも訪れる。 だから一計を案じたのだ。 細工した絨毯に躓き、謎の娘に繋がる唯一の手掛かりを失うように。 「ご心配には及びません大臣。実はもう片方を持ってますの」 履いてみせれば、足は吸い込まれるようにピタリと合う。 当然よ。だってドワーフに急ぎ作らせた特注品だもの。

おやぶん

10年前

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私は王子の目の前でガラスの靴を履いて見せた。私の足は見事に収まった。 これで私が王女となるの。これは驚きね。ええ、そう私は貴方の前に出ていくのが恥ずかしかったのよ。余計な手間をとらせてしまってごめんなさい。 すると、ドワーフがやってきて、私にお金を催促した。 「お嬢さん、俺はガラスの靴の代金をまだもらっちゃいねえぜ」 どういうことなのか、と王子は私を問いただした。なんのことか、私には分からないわ。

aoto

10年前

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「気安いわね下賤な坑夫風情が。私を誰だと思っているの? この国の次期王女よ。このガラスの靴がその事を証明しているわ」 「それは俺があんたに頼まれて作ったもんだろ。何を言って」 「そんな証拠はどこにもなくってよ」 そう、このドワーフが何を言ったところで大臣たちは私が例の娘であると疑っていない。ガラスの靴は砕けてしまい、もう確かめる術はないのだから。 あとは本物の娘と靴を見つけ、そちらも砕くだけ。

やーやー

10年前

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「…そうかい、あんたが白を切るつもりなら、俺だって考えがあるぜ。せいぜい気をつけるこったな」 ドワーフはニヤッと不敵な笑みを浮かべたあと、ドカドカと足を踏み鳴らしながら出て行った。 「まったく嫌ね!あんな下賤な種族なんて滅びてしまえばいいのに。…そうだわ!王子様、この国からドワーフ達を排除しましょうよ。奴らのような野蛮人は放っておくと危険だわ。武器だって作れるし、たんまりと財産を隠し持ってる」

sabo

10年前

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曖昧に笑って何も言わない王子に代わって、私は大臣たちを呼びつけた。 「すぐにドワーフの村へ行きなさい。財産を没収し、家を焼き払い、この国から追放するのです」 「…畏れながら」 白髭を蓄えた大臣が歩み出て、恭しく進言する。 「貴女様はまだ、次期お妃候補のご身分。政務に関わるご命令を貴女様から受ける訳には参りませぬ」 「頭の固いお爺ちゃんね。いいこと、これは王子様のご命令よ。そうでしょう、王子様?」

hayayacco

10年前

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「……そうか、君は知らないのか」 「え?」 王子は苦虫を噛み潰したような顔をすると、冷たい声で言った。 「僕の母はドワーフだ。 気高く気品に溢れた、素敵な武器職人だったよ」 サーッと血の気が引くのがわかった。 つまり彼もドワーフということか。 「王子様、申し訳ございません!!」 必死に謝る。このままでは計画が失敗してしまう! 「君には幻滅した」 しかし謝罪も虚しく、王子は行ってしまった。

さくら

10年前

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こうなったら最後の手だ。 本物の娘を何としても処分するのだ。 私はさっそく腕の良い刺客を雇った。 「王子が見初めたという娘を殺してちょうだい」 刺客はすぐに了解したが、やや怪訝な顔で言った。 「いいのかよ?次期王女を」 「殺し屋風情が何を言っているの?次期王女はこの私以外にあり得ないわ。さあ、わかったら早く!」 この際どう思われても構わないわ。 私はこの国で一番、王女となるに相応しい女なのよ。

kam

10年前

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踵を返し、歩き出したその時、私の胸を衝撃と熱が貫いた。 体の中心に生えた矢の先から赤い雫がドレスに滴り落ちていく。 「な、何、を……?!」 地面に崩折れながら、辛うじて目の端でその影を捉える。 弓を下ろした刺客は静かにこちらを見つめていた。 「これで依頼は遂行したぜ、”次期女王陛下”」 刺客は報酬の金貨の詰まった袋を摘み上げると、後はこちらに一瞥もくれなかった。 ──足音と意識が遠ざかる。

まーの

10年前

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薄れる意識の中で目の前に現れたのは、私がガラスの靴を作らせたドワーフだった。 「愚かな女だ。ドワーフのネットワークをなめちゃ困るさ。この村の殺し屋はだいたい俺たちドワーフなのに。しかし、これも自業自得。せいぜい、いい夢を見るんだな」 やめて、いかないで。助けを呼んで。 私が王女になるの。 遠ざかる足音を聞きながら、私は混沌とした世界に落ちていった。 どこかで、教会の鐘の音が聞こえた気がした。

Dangerous

10年前

- 完 -