「最近、美少女ばかり狙った連続殺人鬼がこの辺りに出没してるって言うじゃない」 僕はうなづく。リカは目を輝かせて、喜々として話を進める。 「それでどう思う?」 突然話を振られ、僕は目を細めて、なんのこと?という意思表示をする。 リカはじれったそうに口を尖らせ、 「だからさ、どんな奴が犯人なんだと思うってこと」 「さあ、ストーカーみたいな変態のおっさんなんじゃない」 僕は投げやりに答え、横を向く。
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「もう、真面目に考えてよ…犯人、おっさんじゃないみたいよ」 リカの発言に僕は顔を向けた。 「どういう事?」 「運良く逃げられた被害者がこう証言してるのよ…犯人は、複数の美少女だったって」 「ええ?」 僕は目を丸くした。てっきり変態野郎による犯罪だと思ってた。 「ねえ、どうして美少女が美少女を殺すのかしら」 「おい、まさか探してみようって言う訳じゃないだろうな」
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「そんなことしてもし私が殺されたらどうするのよ」 臆面もなく美少女であるとの自負を示すリカ。まぁ確かに比較的整った顔立ちではあると思う。 「でもやっぱり気になるじゃない。それに美少女集団なんて言われたら、あんたも少しは興味わくんじゃない?」 「そりゃあ、ね」 「というわけで、よろしく」 「は?」 ここぞとばかりに会心の笑みを向けてくるリカ。それはつまり、こいつの代わりに僕が犯人を探せということか?
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「バカね、私も一緒よ。あんたが女装して囮になっても、いかつい体型のあんたじゃダメでしょ。私が囮になってあげる。あんたは私を守るのよ」 リカの思いつきにはいつも振り回されてきたけど、さすがに今回はやばくないか? 「美少女はリカだけでいいよ」 こう言えば諦めるかと思ったのに、 「当たり前でしょ」 と返ってきた。 「警察に任せたらいいじゃん」 「ダメ」 「二人とも殺されたら?」 「美少女は死なないわ」
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ーーいや、現に何人も死んでますけどね? などとは口が裂けても言えない。リカに逆らったら最後、どうなるかなんて…考えただけでも恐ろしい。 「じゃあさ、本当に身の危険を感じた時に役立ちそうな武器を買いに行こうぜ」 「何よそれ?面倒臭いわね。あんたが買ってきなさいよ」 「…分かったよ。じゃあ今晩、公園で待ち合わせよう」 「えぇ、楽しみね」 ー深夜、僕たちは連続殺人鬼が出てくるのを待ち構えていた。
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僕が万事に備えて“自腹で”用意した対殺人鬼武器を彼女ったら、 「重たくなるのが嫌」 の一言で受け取りを拒否した。男が女を守るのは当然だという要求を百歩譲って飲んでも、まずは自分の身は自分で守ってもらいたい。という事で、彼女に七味爆弾を持たせた。 「せっかくの可愛い服に七味が着いたらどうしてくれるのよ」 無駄に美少女際立つ服装に着替えてきた彼女は不服の様子。 「血まみれよりマシだろう?」
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リカは諦めて七味爆弾をポケットにしまった。 「大柄な男と一緒にいたんじゃ襲いに来ないから、近くの茂みに隠れてて」 「気をつけろよ」 「守ってくれるんでしょ?」 「珍しく、可愛いこと言うじゃん」 「もしもの時はあんたを盾にして逃げるわ」 「あぁ、可愛くなかったわ…」 僕が茂みに隠れて1時間が過ぎた頃、カツカツという音が反響して聞こえた。徐々にこちらに近づいているようだった。
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しかし足音は横を通り過ぎ、そして何事もなかったような沈黙が訪れた。 「こんな美少女が囮になってあげてるのに、どうして誰も襲いに来ないの? 信じられない」 結局、4時を過ぎ、朝日が昇ってきた頃、無傷の僕たちは家路に着いた。 リカは無事なことを一切喜ばず、むしろ怒りに燃えている。 そこから一週間、僕は寝不足の日が続いた。全部空振りに終わったけど。
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「ああ眠い・・・」 「しっかりしてよ!今夜がチャンスなんだから」 「なんで?」 「満月の夜にばかり事件があるからよ。で、今夜が満月!」 僕は呆れた。 「キャアー!」とリカの声。 飛び出そうとした僕が目撃したものは、どこかから現れた美少女の集団が襲撃者グループと戦っている姿だった。 僕らを助けてくれた彼女らは「あたし達が犯人であるかのように証言してね」と言って去っていった。 なぜかは不明だ。
- 完 -