ここあのおとうさん

だいめい わたしのおとうさん なまえ 山はら ここあ わたしのおとうさんは、りょうりを作ってくれます。それに、やさしいです。 わたしのおとうさんは、せなかにでっかいこいの絵があります。 わたしは、それが、かっこよくて大好きです! おとうさんは、おしごとはなにをしているか、よくわからないけど、いえのためにがんばってくれてます! そんなおとうさんが、だいすきです! 心愛の父親は眉をしかめた。

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一般的には普通のおじさんとして過ごしているが、娘の作文を読めば私がカタギでは無い事が丸わかりなこの作文はなんとかするべきである。 しかし幼い娘が精一杯自分の事を好きだと言ってくれているこれを書き換えろと言うのは酷な話だ。 …というか私の心が折れる。 しかしこれは本当に不味いのだ。 下手すれば娘の人生にすら影響のある話だ。 だから私は娘にこう声を掛けた。

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「ここあちゃん、お父さんの背中の鯉はね。みんなにはないしょの鯉なんだ」 「えー、そうなの?」 「お父さんの鯉さんはね、実は夜になるとひとりでに抜け出て動き出すんだよ。だからみんなには内緒にしとかなきゃならないんだ」 「すごい!おとうさんのこいすごいね!!」 そこで娘が書き直した作文がこうである。 おとうさんのせなかにはないしょのこいがいます。でもないしょなのでどういうこいかはいえません。

Utubo

6年前

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結局、鯉が背中にいるってことに…… 娘を気遣いつつ、うまく誘導せねば! 「えっと、お父さんのないしょの鯉はね、背中に住んでるってバレちゃダメなんだ」 「でも、ないしょのこいはないしょですって、ここあ、かいたよ?」 「ないしょの鯉はないしょですってことも、ないしょじゃなきゃダメなんだ」 言ってて意味不明。 「……しゅうごうろんのぱらどっくす、みたいだね!」 どこで覚えてきたんだ、そんな言葉!

歴生

6年前

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「じゃあ、おとうさんのせなかのこいのことは、かかないほうがいい?」 「うん、そうしてくれると嬉しいな。ありがとう」 「えへへ…じゃあ、かきなおしてくる!」 良かった。これで普通のおじさんとして書かれるはずだ。 そう思ったのも束の間、娘が書き直した作文にはこう書いてあった。 おとうさんはよく、かしらというおともだちといっしょにいます。いつかここあもなかよくなりたいです。 …なんてこった…

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心愛のためにも頭と仲良くなる未来は阻止しなければならない。 その前にこの作文の方向自体を変えなければ。 「ここあちゃん。お父さんの事を書いてくれるのはすーごく、嬉しいんだけどね」 「おとうさんにとってめーわく……?」 ああ、ズッキューン!! こんな愛らしい娘の作文を直そうなんて私は何て酷い父親だ……っ! 思わず足を洗う事を決心しかけたが、その前にこの原稿をどうにかする方法を考えねば……。

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「迷惑なんかじゃないよ、でもね…。 おとうさんは心愛ちゃんが大好きだから、心愛ちゃんにはおとうさんのこと内緒にいてほしいんだ。」 「なんで?」 心愛がうるうるとした目で見つめてくる。 な、なんで…?私でも意味がわからない。なんて言おう。 「……。」 「おとうさぁん、わかった!ここあ、おとうさんのことないしょにするー!」 あぁ、なんて可愛い娘なんだ…!そうして見せられた作文には…。

星海

6年前

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おとうさんはいつもここあを見まもってくれます。もうかけません。かくときっとかなしいからです。やくそくしたのでがんばります。 ここあはおとおさんが大すきです。 こ、これは……。 にこにことしている愛娘に微笑を向ける。 「これでおとうさん、かなしくないよね」 天使の笑顔に、このまま天に召されそうだ。そうか、そうすれば何の問題もないのか……。自分の命を思わず天秤にかける。 いや、そんな場合ではない。

12unn1

6年前

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先程、頭からある人間を1人処理してこいとの命令が下った。早くしないとこっちの首も危ない。娘の宿題を手伝っている場合ではない。 「ここあちゃん。おとうさんの背中の鯉が出たがってるみたいなんだ。人目につかないように外で出してくるから、先に寝ててくれるかい?」 「うん!じゃあおやすみ、おとうさん」 さすが、いい子だ。 娘が寝たことを確認して、私はポケットに銃を忍ばせ、そっと夜の街に消えていった。

紺野 薫

6年前

- 完 -