孤独と家族

とある海に浮かんでいる孤島。勿論無地島だ。そこに漂流してもう6年が経つ。嶋野純二はここの暮らしにも慣れてきた。 漂流してすぐは帰りたいと思っていたが、競争が激しい社会と比べるとずっとこの島がいいと思うようになってきた。 もはや食にも困らなくなっている。自然に生えている果物を食べて自作の釣竿で魚を釣る。火を起こせるようになってからは魚を焼いたりしている。 だが、独りは寂しいものだ。孤独は慣れない。

13年前

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孤独を癒すために、砂浜に上がってきた亀や蟹を捕まえて遊んだこともある。けれど人恋しさは決して消えはしない。 せめて孤独に精神を病まないよう、毎日空や海に語りかけ、木片に日々の記録を残した。 ある大きな嵐の翌日、ばらばらになった船の破片がたくさん流れ着いた。 どこか近海で沈没したのだろうか。 海際を歩いていた純二は、驚愕と狂喜に凍りついた。 流れ着いた一際大きな木材の上に、人影を発見したのだ。

13年前

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「おい。お前、大丈夫か?」 順二は嬉しそうに言った。 もはや、彼にとって、境遇を共にした遭難事故はハッピーニュース以外の何者でもない。 「み、水」 男が言った。 異性であればこの上ないが、そこまで運のいいことなんて起こるはずはない。 順二は勇むように水を持ってきた。雨水を貯蓄した、貴重な水だ。 男は水を飲むとしばらく眠った。 順二は男が目をさますのを興奮して待った。

aoto

13年前

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しかし、いくらたっても起きない。 だんだん順二は不安になっていった。 また孤独な日々を送らないといけないのか…。 と色々かんがえていると、目の前の男が起きた。 順二はとても喜んだ。 しかし、男は起きた途端にこう言ったのだ。 「嶋野順二さんですね。 私は貴方に会うためにここにやってきました。 助けて頂きありがとうございます。」 順次は困惑した。 どういうことだ??

12年前

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「お父様に頼まれたのですよ。私、こういう…」 男は懐に手を入れようとして上着を着ていないことに気づいた。 「すみません。名刺は流されました」 お父様という言葉と、嘗て属していた競争社会を彷彿とさせる男の仕草に、純二は眉を顰めた。新たな不安が胸に生まれつつあった。 「お父様は、最近少しお身体の調子を崩されまして。会社の件がありますからね。あと1年の内に、何とか貴方の生死を確認したいとおっしゃって」

misato

10年前

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「あなた、どうやって僕の生死を伝えるんですか?船壊れたから帰れませんよね?」 この状況を打開しようと冷たい声が出る。 「ご心配なく。防水加工のGPSをシャツに括り付けてきました。じきに船が来るでしょうから、私と一緒に来てくださいますね?」 そんな。あの社会に戻るなど、考えただけで虫酸が走る。しかも男の話しぶりでは父も寿命が近いようだ。 ここで帰ったら後を継がされる。 それだけは避けなければ。

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「私は…。戻りたくありません」 単刀直入に胸懐を語った。男の不信の念が自身の命運を分かつかもしれない。 男は順次を静かに見つめる。 「…私はお父様に人探しを依頼された業者の者です。この仕事は一つ誤れば、犯罪に加担する可能性があります。その為、依頼主様の内実を細かくお話し頂いております。 …嶋野様。お父様は心より貴方の帰りを望んでおります。会社の担い手としてではなく。家族として」

9年前

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僕の父親は大手企業の社長。そのため僕は幼い頃から厳しい教育を受けてきた。友達もまともにつくれず、ただひたすら教科書と向き合う日々。 そんな『作業』を繰り返していた。 語学研修のための旅もそれと同じものになる、はずだった。奇跡が起きたんだ。 父は僕を家族だなんて思ってない。父自身が言ったんだ。「お前は俺の後継者なんだ。お前は第二の俺なんだ。」と。 父が本当に欲しているのは自由に操れる人形なんだ。

9年前

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遠くで汽笛が鳴った。 「迎えの船です」 ちらちらと波間にサーチライトが映る。大きな船には社会の縮図がみちみちに詰まっているように思えた。 ……しかしなかなかこちらに近づいてこない。 かわりに光を背に木の葉のような小舟。 乗っているのは……「父さん?!」 岸にたどり着いた父はこう言った。 「船を追い出された。これでは帰ることが出来ないな」 初めて見る、父の困ったような楽しそうな顔。

すくな

9年前

- 完 -