顔から火が出るって本当なんだと思うくらいドキドキしてる。 顔から汗がとまらないよ 思わず恥ずかしに俯いてしまった。 美術の時間、憧れの彼が突然自分の横に座ったのだ。バスケット部で長身で細身の彼。 女の子にモテる彼が自分の横に座ってる。 この席には女の子は私だけで他は男の子だけで余計に緊張して動けなくなってしまった。おデブちゃんの私が彼を好きになるなんておこがましい… …… 時折、彼が覗いてくる
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だからといって、声をかける訳でもなく、彼は、自分の絵を描き続けていた。でも、時折やっぱり私の方を覗くものだから、たまったもんじゃない。 何ですか? と言いたい所だが、教室は静まり返っている。その中では何も言いたくない。皆、自分の絵に集中していた。彼は覗き込んでくるくせに着々と絵を進めている。 私の絵は、止まったまま。絵を進めなきゃ… でも真っ赤な顔を上げたくないし、見られたくない。どうしよう…
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「はい、では皆さん手を止めて」突然、先生の声が私の真後ろで響いたもので、今度は、本当に心臓が飛び出るかと思った。 「では、石膏デッサンはここまで。今度は人物デッサンを行います」 先生のその指示に男子たちがざわめき始めた。 「先生!モデルさんは何歳?Gカップですか?」 バカ男子共がウケまくる。チラ見すると彼もちょっと楽しそう。 「モデルは順番です。まずは草間さんお願いね」 え?わ、私⁈
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「んだよー。草間かよー」 「巨乳連れてこいよー。Gカップー」 アホな男子共が騒いでいる。 「るさいっ!Eはあるから我慢しやがれっ!」 罵声は一瞬で笑い声に変わった。やれやれ…。 …しまった。 いつものノリで凄んでしまったが 彼と急接近のチャンスなう、な状況だった! さっと彼のほうを一瞥すると、他の男子と一緒に彼も笑っていた。 可愛らしい笑顔で。 彼のそんな顔を見たのは、初めてだった。
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先生の指示により、私は恥ずかしいポーズを取らされ、そのまま静止状態を維持するのだが、私の目線の先にちょうど彼が座っていた。 その瞳は私の肢体をしかと捉えてて。 顔が茹でダコのよう。 彼の熱い眼差しに私は蕩けそうだった。 息が上手くできないよ。できないできない。できないできないできない。できない。できないでき ... そのうち、何も聞こえなくなり、世界がゆっくりと時を刻んでいく。
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私、人形になっちゃったのかな?そう思えるほど、頭が真っ白になってる。 彼を見ていると自分が人間なのかも心配になってくる。 だってこの脳は、感情は、普通じゃない。 「草間さん?顔が赤いけどどうかしましたか?」 先生に言われて我に帰った。 「何だよ草間、男かー?」 どきっ 彼も見てるのに。 なんてこと言うのよ。 「んなわけないでしょ馬鹿あっ!」 皆の笑い声が聞こえる。 本当キライ。
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またしても先生が口を開いた。 「じゃあ途中経過みせて、豊田君。」 一瞬時が止まった。 豊田君は私が見ている彼、。 そんな彼が恥ずかしそうに絵をみせた。 「誰だよそれ、草間はスレンダーじゃねぇよ」 男子達が笑うのも無理もない。 豊田君が書いた絵は私とは似ても似つかない。 真逆の女性だった。
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やっぱり私のことなんて見てないんだ…。私の身体をデッサンの材料にして、好きな人を描いてるんだ。 そう思うと泣きそうだった。バカみたい。私のことなんて見てくれるはずないのに。 涙を必死に抑える。ダメだ、こんなとこで泣いたらみんなの笑い者になっちゃう。無理して顔を上げると彼と目があった。彼の瞳にはしっかり私が写っている。私は気づいた。彼は私のことを描いてくれてる。でもなんであんなにスリムに…。
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彼の瞳は、相変わらず私を捉え続けている。大きな瞳に映る私は、デッサンにそっくりな私の姿。 そっくりだと隣にいた男子が、さっきとはまるで逆の評価を下す。 「だろ?デッサンには自信あるんだ」 毛布に包まれているかのような満足感。あれが私。みんなの目に映る私。彼の目に映る私。 でも、私はあんな女の子だったんだろうか?あれが本当の私なのか、それとも。 そんな疑問は、彼の微笑みに飲まれて、消滅した。
- 完 -