「授業中だ、起きろ熱田!」 「痛っ!」 担任に頭をはたかれて、目が覚めた。 慌てて頭を抱える俺に、先生の冷たい視線とクラスメイト達の笑い声が降りかかってくる…。 そんな中、一人だけ笑っていない女子を見つけた。 幼馴染の早川。本に夢中になっているようだ。 意地悪な気持ちになった俺は、 「先生、早川が授業中に本読んでまーす」 はっと早川が振り返った。その耳が真っ赤に染まってゆく。
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嗜虐本能を擽られ、俺は更なる追い討ちを仕掛けてしまう。 「何の本読んでんのかなぁ?」 斜め前の席だ。簡単に手が届く。担任の戸塚はどちらにその拳を降ろすべきかわからなくなったらしい。鼻息をふごふご言わせながら教壇へ戻って行った。 「わ、これエロ小説だ」 目に入ってきた数行で下した判断だが、間違っていなかったのだろう。早川は否定できず、慌てて俺の手からそれを奪い返そうとする。 「二人とも校長室へ行け」
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現代の学校教育では、教師による体罰は禁止され、児童・生徒の自主自律を尊重する風潮になっている。にも関わらず、学校の最高責任者である校長の元へ向かわされる熱田・早川コンビ。事態は決して軽くはないということだろう。……単に多忙な教科担が匙を投げたのでなければ。 「やあまた来たね」 やれどちらが悪いと言い合いながら校長室に来た俺たちを、校長は柔和な表情で迎え入れる。 「今日は何で喧嘩したんだい?」
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