娘のうんこさん滞在記

「一人でうんこさんできるもん!」 そういって、ずんずんと意気揚々、子供用トイレに向かう我が娘。 ああ、なんてラブリー!娘の排泄ならば、それすらも愛おしい!臭いはあれだが。 娘の成長は喜ばしいものだ。 「ちゃんとできた?」 戻ってきた娘に声をかける。 「うん!いっぱい出たの!」 にっこりと笑う天使は、そして嬉しそうにこう続けた。 「なんかねー、茶色くて、パパみたいだったの!」 えっ

森野

12年前

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娘と手をつないで、おそるおそるトイレへ行ってみた。 一緒に身を屈めて、便器の中を覗き込む。 「あれ?」 中には、……何もない。 「あれれ? 本当にしたの?」 「うん、パパみたいだったよ」 だが、ないものはない。 仕方なく、娘のお尻をきれいにして戻ろうとした時。 娘は、開け放したままのドアの向こうを指差した。 「ママあそこ! うんこさんが逃げ出してる‼」 えっ

12年前

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「馬鹿な事を言わないの。そんな事あるわけないじゃない。」 変わった子だとは思ってたけど、空想好きが強すぎるのよね。それにパパみたいって何かの冗談かしら。

yoi523

12年前

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まぁ、あれよね。子供ってうんこに執着するのも成長期には大切な事だって聞いたし。愛娘が育ってる証拠だと思うとほっこりしちゃう。 私は夕食の準備に戻った。 「今夜はミィちゃんの大好きなお姫様カレーよ~」 「ミィ知ってるよ!カレーってうんこさんがとろけ」X! ハァハァ…間一髪、両指で作ったXを娘の唇に押し当てた。お、恐るべし、幼児。容赦無しだな。 ん?くんくん……臭い? 「ママ!うんこさん!いた!」

真月乃

12年前

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まだその遊びは続いていたのか。でも確かに臭う。思わずできたてのカレーを鍋ごと持ち上げて確認してしまった。これは無論美味しい匂いである。 ダイニングから臭うような… 娘はダイニングのハイチェアによじ登っている。これももう小さい。普通の椅子で良いのだけれど。 「ほら、うんこさんパパだよ!」 「!!」 果たして“パパみたい”な“うんこさん”はいた。旦那の席に、背を丸めて腰掛けている。

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うんこさんはもうすでにスプーンを持ち、カレーを口に運ぼうとしているところだったが、視線に気付くと軽く会釈をして言った。 「どうも、お邪魔してます」 私は叫びそうになるのを必死に堪えて、とりあえず会釈をした。 娘は嬉しそうにうんこさん、うんこさんと話しかけている。 ああ、これは夢なのかしら。とにかく物凄い臭いだわ。 「ただいまー」 そこに旦那が帰ってきた。あら、本当にそっくり。

meg

12年前

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「パパー、うんこさんうんこさん!」 娘は『うんこさん』を連呼しながら、玄関へと駆けて行く。当のうんこさんは、黙々とカレーを食べ続けている。…鼻の曲がりそうな異臭を放ちながら。 旦那は娘に手を引かれてリビングへと入って来た。そして『うんこさん』に気付いたようだ。目を見開いて口をあんぐりと開けている。うんこさんも旦那に気付いたようだ。同じように目を見開いて口をあんぐりと開けている。本当、似てるわね…

アリス

12年前

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見れば見るほどよく似てる。 それは本人達が一番よく分かっているようで、お互い一言も発しないままただただ呆然と見つめあっている。 ちょっと冷静に考えよう。 所謂ドッペルゲンガー?…ドッペルゲンガーってうんこだっけ?…いや、ないわ。 旦那そっくりのうんこ…。 うんこさんの私に対する態度から想像すると、来客というポジションがしっくりくるように思える。 …愛娘の尻からいらっしゃった、来客?

ゆふぉ

12年前

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「いや、はや。少々長居しすぎましたかな」 うんこさんは立ち上がって頭をかいた。 「パパさんの席も必要ですしね。カレーご馳走様でした」 お辞儀を残し、彼は家の奥へ向かって歩き出した。と、少し戻って換気扇のスイッチを点け、満足したように再び去って行く。 「うんこさん帰っちゃうの?」 娘はさみしそう。 うんこさんの何度目かのお辞儀の後、ぱたんと扉は閉められる。 少しして、我が家に水流音が長く響いた。

Yuum R.

12年前

- 完 -