色彩を求めて

1匹のカメレオンがいた。 彼は、自分の色を知りたがった。 周りのみんなは、それでいいという。 自分の色を持たないから 君は、君で居られるんだって。 でも、誰かの色を真似して 誰と同じになって その中に溶け込んで。 彼は、ずっと悩んでいた。 本当にそれでいいのか 僕は、何者なんだ。 そうして彼は 自分の色を探す、旅に出ることにしたんだ。

レンga

12年前

- 1 -

カメレオンは旅先で、一羽の美しいルリビタキを見かけた。 カメレオンがルリビタキに近づくと、自然と肌が色を真似て、瑠璃青に染まった。 ルリビタキは驚いて、空へと飛び去ってしまった。 青く染まったカメレオンは考える。 ルリビタキに会ったから、僕は青になった。 ということは、青は僕の色じゃない。 誰にあっても色が変わらなければ、それが僕の色じゃないのかと。 カメレオンは青いまま歩き出す。

12年前

- 2 -

暫くして、疲れたカメレオンはアカテングダケの上で休むことにした。 するとカメレオンの肌は、今度は赤く染まった。 アカテングダケは、カメレオンの重みで折れてしまった。 赤く染まったカメレオンは考えた。 アカテングダケと同じ色に染まったのなら、赤も僕の色じゃない。 僕以外の誰も持っていない色に、いつか染まる時が来るのではないのかと。 カメレオンはまた、赤いまま歩き出した。

naname

11年前

- 3 -

お腹の空いたカメレオンは山蕗に止まっているモンキチョウに舌を伸ばした。 するとカメレオンの肌は黄色に染まった。モンキチョウはカメレオンの口の中。 黄色く染まったカメレオンは考えた。 モンキチョウと同じ色に染まったのなら、黄色も僕の色じゃない。 けれども、このモンキチョウも山蕗に触れていたから黄色になった可能性がある。 モンキチョウをクシャクシャ噛みながら、カメレオンは黄色いまま歩き出した。

aoto

10年前

- 4 -

喉が渇いたカメレオンは、川の水に口をつけた。川底には、綺麗なアメシストが光っていた。 すると、カメレオンの肌は紫苑色に染まった。 アメシストは、川の水に乗せられて、川下へと流れて行ってしまった。 紫に染まったカメレオンは考える。 アメシストと同じ色に染まったのなら、紫も僕の色じゃない。 ただ、アメシストと同じ色に染まった僕は、あの宝石ほど美しくはないけれど。 カメレオンは紫のまま歩き出す。

kam

10年前

- 5 -

漫ろに歩いていると、不意に頭上で嫌な気配がした。枯木の先を見上げれば、鳥の巣で今にも托卵が行われようとしていた。 もともとあった卵が別の親に蹴落とされ、カメレオンはたまらず命の塊をキャッチする。 すると、カメレオンの肌は白に染まった。 白に染まったカメレオンは考える。卵と同じ色に染まったのなら白も僕の色じゃない。 でも心は真っ白でありたいなと卵に呟いて、カメレオンは白のまま歩き出す。

- 6 -

あれもこれも僕の色じゃない。途方に暮れたカメレオンがふと空を仰ぎ見ると、いつの間にか夕陽が落ちようとしていた。 燃えるような橙色に照らされて、カメレオンは橙色に染まった。 橙色に染まったカメレオンは考える。 夕日と同じ色に染まったのなら橙色も僕の色じゃない。 けれどその時カメレオンは気づいた。 おやおやどうして。 夕陽の中じゃまわりも皆、橙色だ。 雲も山も、木々でさえも。

いのり

9年前

- 7 -

西から世界は変容し、いつしかすっかりその姿を変えていった。 新月の夜、あらゆるものは闇に包まれその色をなくしている。 闇の中、カメレオンは周囲と溶け合うような安堵感を覚えた。 色を変えるのは僕だけだと思っていたけれど、もしかしたら世界の色は毎日変わっているのかもしれない。 ルリビタキも、アカテングダケも、モンキチョウ、アメシスト、卵も夕日も、今日と明日では違う色なのかもしれない。

- 8 -

自分の色を求めて色々な所を旅したカメレオン。 その長い旅の中で様々な色に、生命に出会った。 世界に、決まった色なんてない、自分に決まった色なんてない。この色でなくてはいけないなんてことはないんだ。 ボクは、自分がなりたいものになれる。 みんなもなりたいものになれる。 なりたいものになれるなんて、なんて幸福なんだろう。 こころが溶けるほど嬉しいカメレオン。 その背は朝の光の色になっていた。

一燈

9年前

- 完 -