鞄の中身は以下の通りだ。 梅昆布茶の粉末スティック3本 塩キャラメル1箱 シリコン眼鏡ケース 乱視用眼鏡(木製フレーム) 315円で購入した二つ折財布 キーチェーン ガラケー 指人形の動物たち くだらない文庫本 望遠鏡 歯磨きセット それからこの魔法のコンパクトと黒水晶のロッド。
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こうして自分の鞄の中身を改めて確認すると、私ですら自分が魔法少女である事に疑問が湧いてしまう。いや元からおかしいとは思っていた。 何故私の鞄の中身が赤裸々に暴かれているかというと、私は今まさに 警察のお世話になっているからだ! 「本当にあなたはあの爆発事故について何も知らないんですね?」 「…はい」 流石に、『必殺技のせいです』とは言えない。まさかあれ程の威力があるとは思わなかった。
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黒水晶、あんな恐るべきパワーを持っていたなんて。 「正直に話してくれないと、困りますね」 ああ、私はどうなるのだろう。爆発事故の犯人として捕まってしまうのか。 「目撃者がいるんです。あなたが事故の直前におかしなものを振り回していた、とね」 ……魔法少女になんてならなければ良かった。全部、あの小さな猫のせいだ。 うるうるとした可愛らしい目で見つめられ、私はコンパクトを受け取ってしまったのだ。
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この場をなんとか乗り切らないと、複雑な事情は抜きにして、私は魔女になってしまうのだ。 「刑事さん。これ!」 私はとっさに塩キャラメルの箱を指差した。 「これはキャラメルに見せかけたプラスチック爆弾かもしれません」 でも、刑事さんは頭をポリポリかきながら言う。 「それ君の持ち物でしょ。念のため調べてみるけど、なんでそんなもの持ってるの?」 えーと…それは…全然乗り切れてないよ。どうしよう。
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「それで?プラスチック爆弾には雷管が必要なんだけど、それはどれ?」 「え?ライカン⁇」 私はよっぽど間抜け面だったのだろう。刑事さんは溜息混じりで再び頭をポリポリかいた。 「ぎゃっ」 「どしたの⁉」刑事さんは私の小さな叫びを聞き逃さなかった。私は何でもありませんと作り笑いで誤魔化した。 けど…ど、どうしよう…魔法が切れたんだ! 指人形の中の二匹が小さな使い魔猫の姿に戻って必死に人形のフリしてる!
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どうしようどうしよう。 怪訝そうな顔をしている刑事さんにぎこちない笑みを返しながら、私は考える。 やがて、推理小説みたいに乗り切ろう、と私は決意した。 「あのう刑事さん。私がこの魔法のステッキを振り回して魔法少女に成り切って遊んでいたからって、それが爆発事件となんの関係が? 偶然ですよ。大体これ任意ですよね、帰らせていただきます」 一気に喋って、私は使い魔猫達ごと荷物をカバンの中に押し込んだ。
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「ちょっと待ちなさい」 いざ鞄を持って立ち上がり、部屋を出ようとした時。隣の部屋から出てきた別の刑事さんが腕を組んで壁にもたれかかって待ち構えていた。 「な、何でしょう?」 声が裏返りそうになるのを抑えて鞄を後ろに隠した。 「君はもしや」 そこで区切ると口を開いたまま静止した。 私は何を聞かれるのかという思いから冷や汗がダラダラと流れる。 もしかして、バレたの…? 次の言葉を待つ。
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「君は巽町の居酒屋で働いてるよね?」 「うーん、確か店の名は・・・」 「後の祭り!」 ああ、ばれている・・・。 どうしよう、どうしよう?
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ああもうだめだ魔女になっちゃうよと諦めかけたとき、あの猫の声が脳に直接聞こえた。 「何をためらっているんだい。まだ君にはやれることがあるじゃないか」 ハッとしてきょろきょろしたけど刑事さんが不思議そうにするだけ。 でも確かにあれを使うしかない。 私はコンパクトを取り出し、魔法を叫んだ。 ・ ・ ・ 「本当にあなたはあの爆発事故のことを何も知らないんですね?」 ……今度こそ上手くやってみせる。
- 完 -