九尾の狐と呼ばれるハンは、非常に食い意地の張った妖怪であった。 食への関心が異常に強く、自らの不死体をこれでもかと利用し、世界中へ食を求めていく事がある。 その年の春、ハンは「蝙蝠の羽」が美味と知り合いの子鬼から聞き出し、早速海を渡った。 そこで捕まってしまったのだ。 飛び交う蝙蝠がいる、西洋の森洋館の中。 蝙蝠の羽を持ち、吸血鬼と呼ばれるモンスターの青年に。
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「解放して下さい」 「意味わからん」 黒髪の隙間から黒目を潤ませるハン。縛られ正座させられている為、自然と上目遣いになる。 館の主人、吸血鬼のエドは窓硝子をブチ破って襲いかかった珍入者に溜め息をもらす。 「もう一度聞くが…なんで妖怪が俺の家にいる?」 「ですから…ってもう!私は世界中のうまいもんが食べたいんじゃーー!!」 飛びかかるハンをすっと避けるエド。ふぎゃ!と床に顔面衝突したのは当然の結果。
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「暫くそうやってろ」 冷たい目でハンを見て、エドはくるりと背を向けた。 顔を上げたハンの視界に飛び込む大きな羽。 堪らない。これぞ「蝙蝠の羽」中の「蝙蝠の羽」だ。 何としても食べたい。 できればこの吸血鬼が生きているうちに、その体から切り離したりせずに、直接がぶりと齧りたい。 それが一番うまい食べ方だと聞いたのだ。いかにも新鮮そうだし、当然だろう。 ハンの口の中は、唾液で一杯であった。
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