桜ケ峰高校、演劇"部"

桜ヶ峰高校〜牧野 俊介編〜 まだ右も左も分からない1年生を我れ先に!と奪い合う激しい争奪戦、部活動勧誘。牧野俊介もまたそれに加わっていた。昨年彼が発足させた演劇同好会を正式に部へと認めてもらうため、彼は人一倍張り切っていた。この物語は彼と演劇同好会を描いた物語である。

key

12年前

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俊介の奮闘虚しく入会希望者は未だゼロ。 「まあしょうがないんじゃね」 そう言ったのは親友にして唯一の会員の小野啓介。 「まだ新入生歓迎の芝居がある」 「そもそもむさい男二人で何をやるのだ」 そんなやり取りをしているところに幼馴染の栗原歩が飛び込んできた。 「ビッグニュースだぞ あの浜野明美が新入生にいるらしい」 「誰それ?」 俊介の言葉に呆れたように歩は言った。 「天才子役だった子だよ」

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そう言われてこの前見たドラマの再放送を思い出す。 『お父ちゃん、行っちゃ嫌だよ』 父の袖を掴んで涙をほろりと落とす少女の演技が話題になっていた。 その少女が入学してきたということか。 「だけど、元天才子役だろ?あれか、大きくなったらちょっと残念なことに…」 「そう思うだろ? だが美少女だ。黒髪ストレートの」 それを聞いて立ち上がる悲しき男子高校生たちはともかく自然と走り出していた。

NaNasi

12年前

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「きゃっ」 俊介は勢いよくドアを開けると、そのドアの後ろで小さな声が上がった。ドアにぶつかったわけではなさそうだが、尻餅をついた小さめの少女が倒れていた。 「大丈夫?」 手を差し伸べると、真新しい制服と上履きが目に入る。 俊介の目がキラリと輝いた。その意味を的確に理解した啓介と歩は、心の中で密かに彼女に謝る。 ━━数秒後、二人の懸念通り、宮内紗季はあっさりと入会を希望してしまったのだった。

Iku

12年前

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中に入って部室を見回す宮内紗季の目は希望に満ち溢れていた。 彼女が『部員は何人いるんですか?』とか言い出す前に二人はこっそり抜け出した。 「で…どうすんだよ」と、歩。 「とりあえずその浜野明美を探そうぜ」 二人は重い足取りで歩き出した。 「「はあ…」」 一方その頃、俊介は宮内紗季に演劇部を熱弁していた。 「部員こそ少ないが、演劇部は素晴らしい部活だ!」

12年前

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と、その時、 バーン! 勢い良くドアが開く。 俊介の目が自然と注がれる。 「あ、君も入会希b、、、」 ロングの黒髪、白い肌、整った顔立ち、 「ま、まさか!」 名札に書かれたその名前は 「浜野明美ですが、なにか?」 どん!という効果音が背後に具現化するほどの強烈な存在感だった。 彼女が自分からこの会に⁈ ならば話は早い、と早速アピールを始めようとしたら 「やっぱ入るの辞める。ゴミ過ぎ」

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颯爽と踵を返し帰ろうとする明美に、俊介は一瞬の逡巡の後に引き止める。 「待ってくれ。もし、他へ行けば楽しい高校生活が送れるかもしれない。だが、君の青春はただ中途半端にダラダラと消費するもではないだろう」 明美は足を止め振り返った。 俊介は続ける。 「初めから出来上がっているものなんてありはしない。この底辺の演劇部から日本一になるというのが君の運命だとは思わないか」 「あなた、馬鹿ね」

terry

11年前

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「あの、浜野さんさっき『やっぱ』って言ったよね」 成り行きを見守っていた紗季が声をかけた。 「だから何?」 「それってもう入部を決めてたわけだよね。どうして…」 「元天才子役がなぜ、演劇部にさっさと入らないのかって?ふん、いくら天才といえど過去の話。大人になった子役はゴミよ、誰からも必要とされない」 いや、君は演劇部の星!とか叫ぶ俊介を無視して紗季は言った。 「どうしてこの高校に入学したの?」

ゆりあ

11年前

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「は?」 「ここの演劇部、ちょっとだけ有名だったからじゃないの?」 「演劇同好会だがな」 俊介の訂正を振り払うようにして紗季は続けた。 「男2人で始めて、めげずに2人で大会にも出て」 赤面する約2名。明美が目を見開いた。 「私はそれを知ってるからこそ、入ろうと思ったの」 「初耳だわ。そんなの」 明美は2人を交互に見比べて言った。 「…入ってもいい?」 「もちろん!」 演劇"部"まであと少し。

Dangerous

10年前

- 完 -