真顔

僕は常に真顔だ。 喜んでいる時も、怒っている時も、哀しんでいる時も、楽しんでいる時も、常に真顔だ。 お腹に包丁が刺さっていても、おそらく真顔であろう。 笑う時は、真顔で笑う。真顔で「ハハハ」と笑う。だから友達は少ない。 この顔で良かったことといえば、大好きなクミちゃんに「ショウくん、クールだね!」と言ってもらったことぐらいであろう。そしてクミちゃんはかわいい。

BANZAI

13年前

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クミちゃんが包丁片手に僕の前に現れても、真顔のままだった。 クールだね。 クミちゃんはそう言って、僕の腹に包丁を突き刺した。 一度見てみたかったんだ、最高にクールなところ。 腹は黒く染まった。 それほど赤いわけじゃないんだな。 新しい発見でさえ、僕の真顔を崩すことは出来なかった。

aoto

13年前

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そこで一度記憶がとぎれ、次に目を覚ますとベッドの上だった。クミちゃんはいなかった。 白いシーツと消毒液の臭い。どうやら病院らしい。そういえば幼稚園の頃、他の子は泣き叫ぶ注射も、僕は真顔だった。看護師さんが「偉いね」と褒めてくれた。 体を起こす時に腹が痛んだけど、やはり僕は真顔だった。クミちゃんはどこだろう。 「目が覚めました?」

noname

13年前

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その言い方から看護師さんだと思ったが、見るとそこにはクミちゃんがいた。 僕は驚いたが、それでも真顔だった。 「ショウくん、最高にクールだったよ」 かっこよかったぁ、と頬をかるく染めながら話すクミちゃん。 「…どうしたらそのクールな顔を苦痛に歪めてくれるの?私ショウくんのクールな顔大好きだけど、苦痛に喚くショウくんの顔が物凄く見てみたいの」 嗤うクミちゃんを見ても僕は真顔だった。

ハイリ

13年前

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「ショウ君、見て」 にっこりと微笑むクミちゃんが差し出したのは、僕の妹だった。 首から上だけだったが。 「……やっぱりクールだね。ショウ君のお見舞いために用意したけど、駄目だったかぁ。ねぇ、どうしたらショウ君の顔を崩せるの?教えてよ」 クミちゃんが差し出すものの断面から真っ赤な液体がポタポタと垂れて、白いベッドを染めていた。真ん丸に見開かれた瞳と目が合っても、僕は真顔だった。

nonama

13年前

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僕が黙っていると、クミちゃんは少し残念そうな顔をした。それも一瞬のことで、すぐにクミちゃんは腕組みをする。 僕の表情をどうしたら崩せるか、一生懸命考えてくれるのだろう。何だか、嬉しいなー。 「そんなこと言われても、わからないよ」 「やっぱり、自分で考えるしかない、か」 だって、僕は真顔以外の表情を知らないから。生まれてこのかた、僕が一度でも表情を崩した?

syouberuto

13年前

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次の日もクミちゃんはお見舞いに来た 「じゃあさ…」言いかけてクミちゃんはいきなり僕の口にろうとを突っ込み2リットルペットボトルから水を流し込み始めた 「どう?苦しい?」笑顔でクミちゃんは聞いた。ちょっと返事は出来なかったけど僕は相変わらず真顔だった。 「もう…いい…。」 彼女はろうとと水をセットしたまま僕の鼻を塞ぎ手を縛って部屋を出て行った。 可愛らしい笑顔のまま…。

百合華

13年前

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水は僕の胃を限界まで満たして、喉まで到達していた。このままだと脳まで水に浸されて窒息してしまうだろう。 圧迫されて目が血走っていたが、相変わらず真顔だった。 突然、ミクちゃんが部屋に戻ってきた、見知らぬ男と一緒に。「これからデートなんだ」 そういって僕を放置して出て行った。 ミクちゃんにとって、これは無表情を崩すためのゲームであり僕に恋愛感情は無かったのか。そう思うと、途端に死にたく無くなった

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ショウくんクールだね そのお顔歪めたい クミちゃんの目は鮮やかで美しかった。まるで天使だ。舞台仕掛け付きだが。天井の梁から頑丈な白紐が垂らされ、クミちゃんはそこで浮かんでいた。首吊りクミちゃん。僕はクミちゃんの固まった唇にあざだらけの手を伸ばした。 ショウくんやっぱりクールだね クミちゃんの口角がにたりと上がった気がした。僕はやはり真顔のまま、そっと顔を近づけた。

todoelmund

13年前

- 完 -