就活カプセル

頑張る理由を一昨日くらいに忘れてきたらしい。
朝、目が覚めたら何をすればいいのか忘れていた。とりあえず腹は減るが、米がなかった。冷蔵庫には消費期限が今日までの豆腐しかない。

なぜ、一昨日くらいと思ったのか。昨日の記憶がないからだ。カレンダーと自分の記憶を照らし合わせたらそうなった。
豆腐を食い終わる。しかし足りない。財布の中には千円札一枚と小銭。スマホのカレンダーアプリは、面接予定の文字だらけ。

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アプリで今日の予定を確認すると、午前10時に面接の予定がはいっていた。

「はあ…また面接か」
もう20連敗中だった。一体何がいけないのかわからなかった。

いや、本当はわかっていた。
私がブスだからいけないのだ。

顔を洗おうと洗面所へ向かう。そして鏡を見て私は驚いた。

そこには見知らぬ女の顔があった。
かなりの美人である。私はその顔の鼻をつまんだり頬を撫でてみたりした。ちゃんと感触があった。

sabo
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これは、夢?
起きたての頭に状況が飲み込めないでいる中、激しく動揺した。こうなってくると昨日の記憶がないことにまた戸惑った。

…昨日、私はナニをしてしまったんだろう?

部屋に戻ってアプリをまた開く。昨日のスケジュールを確認すると、とある薬品会社の面接に行ったようだった。

しかし何も思い出せない。

不意にテーブルに視線を移す。
すると、一枚の文書とカプセルが1つ転がっていることに気づいた。

haco
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その瞬間、ドミノが崩れ落ちていくように記憶が戻った。そうだったあの時……。

昨日の昼過ぎ。
しわくちゃのスーツを着た私は薬品会社の面接に行った。しかし、会社の役員は
「面接室はこちらです。」
と私を騙し個室に連れて行った。
それから私は睡眠薬を飲まされていたんだろう。
目が覚めた頃が今朝であった。
そして私は整形されたのだろうか。
しかし、そんな形跡はない。
私は文書を読んだ。

shu
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《復元を希望される際に服用ください》

書かれていたのはそのそっけない一文だけだった。
服用、というのは付属のカプセルのことだろうか?
──復元。
意味深な言葉ではある。
それはすでに私の身に変化が起きていることを示唆するからだ。
そして今、私が自覚している変化は一つだけ。
つまり。
「これを飲めば、元の顔に戻れるってこと……?」
経緯はわからない。
確証もない。
なのに私は既に疑っていなかった。

まーの
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「こんな美人になったのに、戻るなんて馬鹿馬鹿しいわ」

ゴミ箱に薬を捨てようと思ったけど、薬箱の隅に仕舞った。

私は新しい顔で証明写真を撮り直し、面接を受けた。
顔に自信のついた私は猫背でうつむきがちだったのを止め、背筋を伸ばし顔を上げた。
今までの面接で興味なさげだった面接官とは違い、前のめりで私を見ていた。

今までとは違う面接での手応え通り、私は内定の電話を受け取った。

羽野ニコ
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その後は内定ラッシュだった。今までの憂鬱な気分はすっかり吹き飛んだ。変化1つで人生がここまで変わるなんて!

実生活では彼氏ができた。彼は私の前向きな態度に惹かれたと言う。そういう自分になれたのも、あの薬のおかげだ。

面接を全て終え、就職先も定まった夏休み前。電話が鳴って誰とも知らず通話ボタンを押す。
『私、ナカタ薬品会社の田中と申します』
私は自分の頰を触る。あの薬品会社が今更何の用だろう。

Joi
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『本日は内定式についてご案内したく、お電話いたしました』

…え?
自分の耳を疑うが、冗談を言っている様子でもない。私は大手商社に入社予定だというのに。

「ど、どういうことですか。人違いじゃありませんか?」
『今井さん、であってますよね?例のカプセルもご利用いただいているはずですが』
「はあ、そうですが」
『内々定を出す代わりに、例の薬の実験台になってくださる。そういう契約だったじゃないですか』

kam
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私はすかさず薬箱の隅に閉まっていたカプセルをひっぱりだし、その中に入っていた文書をもう一度開いた。

《復元を希望される際に服用ください…………ただしこのカプセルを服用することは、あなたにこの薬の実験台になっていただくということですので、あらかじめご了承ください。》

(ああ、しまった…)
心の中でそうつぶやきながら、電話越しにいるタナカさんになんと返そうか考えていた。

weaver
- 完 -

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