朝起きたら猫耳と尻尾が生えてました。 「うわー……」 姿見には黒い猫耳と尻尾が生えた自分の姿。 「二十歳の、しかも特に容姿が良い訳でもない女が猫耳と尻尾とかないわ。気色悪い」 不幸中の幸いは今現在、私が一人暮らしであり、今日が休日である事だろうか。 「決めた。今日は家から一歩もでない。明日になったら消えてるかもしれないし」 そう言いながら二度寝をするためにベットへ潜り込んだ。
- 1 -
「こちらは粗大ゴミの回収車です!ご不要に…」 うっさいなぁ…人が気持ちよく二度寝… ハッ! 私は飛び起きて尻尾と耳を…うっ まだある…。 っていうか何これ⁉ 自分の掌を見て驚いた、手が黒く毛むくじゃらでしかも、しかも!指が肉球になっちゃってる! な、なんかヤバい… 二度寝する前より黒猫化してる⁉ 落ち着けぇ落ち着けぇ… 私は取り敢えず手の甲をペロッと舐めて顔を洗った。ちょっと落ち着く。
- 2 -
はっ!! 私何か猫みたいになってる!! オロオロしていると、耳と尻尾がピクピク動いてることに気づいた。 「まさか....」 お尻に軽く力を入れる。 ......ピクッ やっぱりいいいいいい!!! 神経までいかれてきてしまった。 どうしよう。 ぐぎゅるるるる お腹空いたな。 とりあえず、何か食べるか。 冷蔵庫から菓子パンをとる。 ...ん? 何か、味が濃い......?
- 3 -
舌をちろっと出して触ってみた。 ...ひいい!ざりざりしてるうう!! まさしくこれは、猫の舌! 焦りとともに、なんだか無性に...魚が食べたくなってきた... 魚...煮付け。いや、塩焼き。...違う。 生だ。 私は今!生魚が食べたい! 頭から! ってそれはヤバイでしょう!! 絶叫しそうになった時、棚の上の携帯が鳴った。 バイブに合わせて、携帯から垂れたストラップがゆらゆら揺れている。
- 4 -
揺れるストラップを目が追う。そして、前足でつついては揺らした。ああ、どうしてこんなにも私の心をかき乱すのだろう、このストラップは! そうこうしているうちに、携帯は鳴り止んでいた。 まぁ、この肉球じゃあ、携帯もうまく扱えないし、いいか。 どうして、猫化していっているんだろう? …そういえば、黒猫! 私は数日前に黒い猫をみている、そのことを思い出した。
- 5 -
三日前 街で、足に怪我をした黒猫をみた。 「ニャー…」 「あらら…可哀想に。ごめんね。ウチじゃ飼えないし…」 猫の頭を撫でながら 「私が変わってあげられたらいいのにねぇ」 『私が変わってあげられたら』 いやあーっ‼ あのなんとなく言った一言でこんな姿に… にゃんてことだ…って、え⁈ 今、にゃって言った⁈言葉まで猫化してる! にゃんとかせねば… するとまた携帯が鳴った。画面には… 『兄キ』
- 6 -
私は小刻みに揺れるストラップをなるべく見ないように、もはや指と呼べるのか曖昧な手で通話に出た。 「あ、やっと出たか。なんでさっきの電話に出なかったんだよ、寝てたのか?」 兄キ、それより聞いて!私の身体が変にゃの! 「…あ?」 起きたときから、猫化しちゃってるの!助けて! 「……あいつ、猫なんて飼ってたっけな…」 そういって兄キは通話を切った。 最悪だ。最早人間の言葉も話せにゃくにゃっている。
- 7 -
ふん! 諦めてたみゃるもんか! なんとかしにゃいと……あ、すとらっぷ! にゃうーん 遊んでしまった…ショックから立ち直るまで数分。意外と早かった。 鏡を見る二つのエメラルドグリーンの瞳が可愛らしい。 ピンポーン 兄キがやってきた。怪我をした私をおぶってるという土産付き。 容姿だけはカッコいい兄キ。こんな時だけは頼りになるように見えた。 にゃうにゃうにゃう… 助けてよ。私はこっち
- 8 -
「全く、この体質には困ったもんだ。母さんと同じで」 兄キは、私(の身体)をベッドに寝かせると、猫の私に近づいてきた。母さんと同じ?という疑問はあったけど、「ほら、これを食べろ。母さんに渡された。変わってあげられたらいいのに、そう思ったんだろ?」と、スーパーの袋からししゃもの入ったタッパーを見せられるとどうでもよくなった。 「戻る方法はわからない」 兄キの言葉で、ベッドに横たわる私はにやりと笑った。
- 完 -