ある優しい殺し屋の最期

ここに3人の容疑者がいる 1人は男性、残りは女性である。 今から取調べを始めるが、どうも奇妙な事件だ… 何が奇妙かって被害者は通称"タケ"といわれる殺し屋なんだが、完全主義者で今まで受けた依頼は何ひとつ証拠は残さず遂行する男で我々も煮え湯を飲まされた事が多々あるのにやられるとは到底思えなかった… この容疑者たちに… この"真行寺 毅彦"が相棒の警部補 酒田と奇妙な事件を解き明かす…

ありおん

13年前

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一人目の容疑者、村上 晴臣(22)ピザ配達員。 「あなたは事件当夜と見られる昨夜1時20分から50分の間、現場付近にいたわけですね?」 「そりゃ…仕事ですから、注文があれば何時でも、何処へだって届けますよ。これってプライバシーの侵害になるのかな?俺、お客がどのピザを頼んだかだって正確に覚えてる!トッピングもね!」 「そしてそれを届けた時に、害者…客が血を流して倒れているのを発見した…と」

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二人目の容疑者 中村 鈴菜 (22) 学生 「あなたは被害者の部屋の隣にお住まいなされていますが、何か物音など聞こえませんでした?」 「さぁ、ここのマンションの壁は割合厚いみたいで、出前のチャイム音すら聞こえません」 「聞こえませんか」 「それより、事情聴取って初めてなんですが、Twitterとかいいんですかね? できたら刑事さんの写真も欲しいです」 「守秘義務に反しますので呉々も謹んで下さい」

aoto

13年前

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三人目の容疑者、葛城志保子(26)会社員 「被害者は事件前、あなたに電話をかけていました。被害者と話しましたか?」 「いいえ、私、寝る時は携帯の電源切るんです。だから、全く気づきませんでした。でもまさかあんな事になるなんて…」 「なるほど…所で被害者とあなたの関係は?」 「…元恋人同士です…でもすっぱり別れました。そのつもりです」 「そうですか…ご協力ありがとうございました」

13年前

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さてみなさんおわかりいただけましたでしょうか? なにがって? 勿論それは犯人がわかりましたか?という問いかけですよ。 『銃が出てきたら、それは撃たれなければならない』 同じく人が嘘をつくときには必ず理由があるものです。特にこのようなケースの場合は必ずね。 そう嘘をついている人間が今回の犯人なのです。 さて三人にもうひとつ質問をしてみましょうか。

羊男。

13年前

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村上晴臣への二度目の質問 「あなたは配達で現場に行った。間違いありませんか?」 「はい」 「おかしいですね。ドレミピザの営業時間は午後11時までです。深夜1時以降に配達することは出来ないはずなのですがね」 「!…」 村上に動揺の色が見えた。 「どういう事か説明して下さい」 「それは…」 村上は会社に内緒で時間外の宅配を請負っていた。害者はチップをくれる上客で常連だったらしい。 この線は消えた。

黒葉月

13年前

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中村鈴菜への二度目の質問。 「あなたはマンションの壁が分厚いから、出前のチャイム音に気づかないと言いましたね。どうして、チャイムを鳴らしたのが出前を配達してきたと、わかるのでしょう?」 鈴菜は、刑事と目が合わないようにそっと俯いた。 「……」 鈴菜は、親から食事を与えられていなかった。冷酷なはずのタケは鈴菜にピザを分け与えていた。 鈴菜にとって、タケは恩人のようだが。

13年前

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葛城志保子への二度目の質問 「被害者は、どんな人でしたか?」 葛城の視線が下に向いた。 「見た目で誤解されることも多いですが、彼ほと優しい人に私は会ったことがありません」 真行寺は喉の奥でうなった。酒田は彼女をまっすぐ見つめていた。 「彼、仕事で悩んでるって、別れる前に言ってたんです。きっと大事なことを電話で言うつもりだったのに私は……!」 泣きはじめた彼女を見ながら、真行寺はふと思いたった。

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「中村さん、あなたはなぜ嘘をついたんです?タケが抱えていた“仕事上の悩み”をあなたは知っているんじゃないですか?」 真行寺が尋ねると、途端に鈴菜は泣きはじめた。 「……私のせいです。私、タケさんに両親を殺して欲しいと頼んだんですが、タケさんは悩んだ末断わってきました。なら自分で殺すといって包丁をもった私と揉み合いになって、タケさんは…」 無垢な少女を殺人者にしないために、殺し屋は死んだのだった。

- 完 -