DEAD END
キュイーン──ザザ…17時20分、大統領は…ザザザ…西地区への戦術核使用の許可を…ザザザー…付近の生存者は…ザ…だちに避難を…ザーザ…神よ、我らを赦し給え……
やっと手に入れたラジオが告げたのは、最悪のニュースだった。
「逃げろって、一体どこへ逃げんだよ」
手にした斧でラジオを叩き潰すと、辺りには静寂が戻る。
かわりに奴らの唸り声がよく聞こえるようになった。疲れを知らぬ屍人たちの唸り声が。
- 1 -
逃げ込んだ見知らぬ家のリビング。
外に出れば奴らがいる。ラジオのニュースが嘘でなければ一瞬でこの辺りは消滅する。
映画では、こんなときどうしていたっけ。
ゾンビ映画はたいてい観てんのに、こんなときに思い出せない。
どちらにしても、死んでしまうんだ。
だけど奴らに襲われたくはない。
映画ではヘリで逃げたり…。でもそんなもんあるわけないし。車を探すしかないか。
- 2 -
「イイもんみっけ!」
呑気な言葉を発するタカシ。この危機的状況を分かってないのか。そこがコイツのいいところでもあるが。
「お前、状況分かってんのか?俺らマジでヤバイんだぞ!屍人見ただろ?さっき追いかけられただろうが」
「うん。けどこいつがあればもう安心さ」
超強力洗剤アルカパワー。こいつは今から洗濯でもする気か。
「後これもあったよ」
4つの輪が重なるエンブレム、車のキーだ。それを早く言えって。
- 3 -
移動手段が手にはいれば大分違う。屍人がいないとこまで行ければ希望がみえるはずだ!
しかし車は外に止めてある。乗り込む前に捕まったらお終いだ。さて、どうするか…
「ね、この洗剤であいつらの動きを止めましょう!車までの道は坂になってるし、撒けば滑り落ちるんじゃない?ダメな時は目潰しにでも!」
咄嗟にアイディアをだすナオ。その作戦はどうかと思うが、今の手持ちの物では最善の策だろう。
- 4 -
「死人に目潰しキクかわからんけどな。」
と、横からタカシ。
「ウッサイわね!キクかもしれないでしょうが!」
ナオがタカシを睨む。
…静かにしろよ。頼むから。
溜息を付きながらカーテンの隙間から外を覗く。
周りには屍人の姿は見えない。
見える範囲でだか。
車までの距離は100メートル弱だったか…。
時間が無い。
ナオとタカシの顔を順番に見つめた。
二人共覚悟を決めたようだ。
ドアノブを握る。
- 5 -
「…界面活性剤、だからかな」
「表面張力を低下させて、ってか?」
「うん」
ドアを開けたその直後。俺らは全力で走った。そしてキーを差し込み、車へ乗り込もうとした瞬間だった。
『タカシ!伏せて!』
助手席に乗り込もうとしてたナオには見えたらしい。屍人がタカシを喰おうとしていたのが。ナオは咄嗟に洗剤を投げつけたのだが、それが予想以上の効力を発揮した。
『え、…』
『嘘だろ…』
見る見る内に溶けたのだ。
- 6 -
髪が焦げる何十倍もの悪臭を吐き出し、粘りある黄色やら桃色の泡がプスプスと弾けながら、ぬちゃぬちゃと地面に広がった。
俺達は唖然とし、その場に固まっていた。
「つ、伝えなきゃ…これ…警察?政府?軍隊?何でもいい!兎に角偉い人に!大統領に伝えなきゃ!」
ナオが急に我に帰って叫び、三人で大きく頷いた。
車に乗り込み、タカシがキーを差し込む。
『嘘だろ⁈』
コンソールで「E」の文字が点滅していた。
- 7 -
「おい、どうするんだよ!」
「ねえ、奴ら集まってきてるよ! 早く動かして!」
タカシとナオが叫び声をあげている。
車窓に向かって、屍人が手を伸ばしてくる。
「二人とも落ち着け、Eでも10キロくらいは走れるようになってる」
二人の息を飲む音が聞こえた。そうだ。俺たちはこの洗剤の効果を誰かに伝え、世界を救う。大量の洗剤を確保し、空から撒くのだ。
手を重ね合い、俺たちは覚悟を決めた。エンジン音が響く。
- 8 -
ハンドルを握り、タケシはアクセルを思い切り踏み込む。
みんなを乗せたアウディは屍人を跳ね飛ばしながら庭を爆走し、車道に飛び出た。
主要道路のどこかに、自衛隊や警察が来ているはずだ。
街は屍人と死体、逃げ惑う人たちで溢れかえっていたが、それらには目もくれず、俺たちは高速道路を目指した。
色々な「障害物」にぶつかりながらも車は何とか走り続け、フェンスで閉ざされたゲートに辿りついた。
続く……。
- 完 -
作品情報
DEAD END
#2821
- リレー期間
-
6ヶ月