DEAD END

キュイーン──ザザ…17時20分、大統領は…ザザザ…西地区への戦術核使用の許可を…ザザザー…付近の生存者は…ザ…だちに避難を…ザーザ…神よ、我らを赦し給え…… やっと手に入れたラジオが告げたのは、最悪のニュースだった。 「逃げろって、一体どこへ逃げんだよ」 手にした斧でラジオを叩き潰すと、辺りには静寂が戻る。 かわりに奴らの唸り声がよく聞こえるようになった。疲れを知らぬ屍人たちの唸り声が。

saøto

13年前

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逃げ込んだ見知らぬ家のリビング。 外に出れば奴らがいる。ラジオのニュースが嘘でなければ一瞬でこの辺りは消滅する。 映画では、こんなときどうしていたっけ。 ゾンビ映画はたいてい観てんのに、こんなときに思い出せない。 どちらにしても、死んでしまうんだ。 だけど奴らに襲われたくはない。 映画ではヘリで逃げたり…。でもそんなもんあるわけないし。車を探すしかないか。

12年前

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「イイもんみっけ!」 呑気な言葉を発するタカシ。この危機的状況を分かってないのか。そこがコイツのいいところでもあるが。 「お前、状況分かってんのか?俺らマジでヤバイんだぞ!屍人見ただろ?さっき追いかけられただろうが」 「うん。けどこいつがあればもう安心さ」 超強力洗剤アルカパワー。こいつは今から洗濯でもする気か。 「後これもあったよ」 4つの輪が重なるエンブレム、車のキーだ。それを早く言えって。

KeiSee.

12年前

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移動手段が手にはいれば大分違う。屍人がいないとこまで行ければ希望がみえるはずだ! しかし車は外に止めてある。乗り込む前に捕まったらお終いだ。さて、どうするか… 「ね、この洗剤であいつらの動きを止めましょう!車までの道は坂になってるし、撒けば滑り落ちるんじゃない?ダメな時は目潰しにでも!」 咄嗟にアイディアをだすナオ。その作戦はどうかと思うが、今の手持ちの物では最善の策だろう。

ハイリ

12年前

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「死人に目潰しキクかわからんけどな。」 と、横からタカシ。 「ウッサイわね!キクかもしれないでしょうが!」 ナオがタカシを睨む。 …静かにしろよ。頼むから。 溜息を付きながらカーテンの隙間から外を覗く。 周りには屍人の姿は見えない。 見える範囲でだか。 車までの距離は100メートル弱だったか…。 時間が無い。 ナオとタカシの顔を順番に見つめた。 二人共覚悟を決めたようだ。 ドアノブを握る。

山崎信行

12年前

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「…界面活性剤、だからかな」 「表面張力を低下させて、ってか?」 「うん」 ドアを開けたその直後。俺らは全力で走った。そしてキーを差し込み、車へ乗り込もうとした瞬間だった。 『タカシ!伏せて!』 助手席に乗り込もうとしてたナオには見えたらしい。屍人がタカシを喰おうとしていたのが。ナオは咄嗟に洗剤を投げつけたのだが、それが予想以上の効力を発揮した。 『え、…』 『嘘だろ…』 見る見る内に溶けたのだ。

noname

12年前

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髪が焦げる何十倍もの悪臭を吐き出し、粘りある黄色やら桃色の泡がプスプスと弾けながら、ぬちゃぬちゃと地面に広がった。 俺達は唖然とし、その場に固まっていた。 「つ、伝えなきゃ…これ…警察?政府?軍隊?何でもいい!兎に角偉い人に!大統領に伝えなきゃ!」 ナオが急に我に帰って叫び、三人で大きく頷いた。 車に乗り込み、タカシがキーを差し込む。 『嘘だろ⁈』 コンソールで「E」の文字が点滅していた。

真月乃

12年前

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「おい、どうするんだよ!」 「ねえ、奴ら集まってきてるよ! 早く動かして!」 タカシとナオが叫び声をあげている。 車窓に向かって、屍人が手を伸ばしてくる。 「二人とも落ち着け、Eでも10キロくらいは走れるようになってる」 二人の息を飲む音が聞こえた。そうだ。俺たちはこの洗剤の効果を誰かに伝え、世界を救う。大量の洗剤を確保し、空から撒くのだ。 手を重ね合い、俺たちは覚悟を決めた。エンジン音が響く。

aoto

12年前

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ハンドルを握り、タケシはアクセルを思い切り踏み込む。 みんなを乗せたアウディは屍人を跳ね飛ばしながら庭を爆走し、車道に飛び出た。 主要道路のどこかに、自衛隊や警察が来ているはずだ。 街は屍人と死体、逃げ惑う人たちで溢れかえっていたが、それらには目もくれず、俺たちは高速道路を目指した。 色々な「障害物」にぶつかりながらも車は何とか走り続け、フェンスで閉ざされたゲートに辿りついた。 続く……。

kyo

12年前

- 完 -