不幸のボタン

…うーん…… どっちにしようかなぁ… まずい… もう、かれこれ30分たつぞ… …うーん……

battamon

12年前

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自他ともに認める優柔不断な俺。 目の前にあるのは赤いボタンのスイッチ。 「押すと一千万円がもらえます。ただし誰かが不幸になります。24時間以内に押さないとあなたが死にます。以上。なお、質問は受け付けません」 机の上の説明書と書かれた紙にはそう書いてある。 押すべきか、否か。

12年前

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帰って自宅のポストを確認すると、闇のような黒い小包と黒い封筒が入っていた。中身は先ほどの赤いボタンと説明書。 椅子に座り腕を組んで考えること、約三十分。俺はボタンをポチッと押した。 爆発するかとも思えたが机の上では何も起こらない。俺はホッと一息ついて、ボタンと説明書をゴミ箱に捨て立ち上がった。 何故押したかって?そんなの決まってるだろ。自分の命と他人の不幸、あと金、天秤にかけるまでもない。

なつ

12年前

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誰がどんな風に不幸になるんだろう? 思わないでもないけど押したものは仕方が無い。どうせこの日本だけを見てもこの瞬間、誰か死んだり離婚したり破産したり自転車盗まれたりしてるんだ。 それが俺のせいか分かるもんか。 ───翌日 宅配便で段ボールが届いた。そんなに大きくない。伝票には図書と書いてある。いつか予約したものが届いたのだろう。 ところが現金だった。そして札束10個の下にある封筒を開けた。

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「あなたはこれからこの現金を持っていることは誰にも言ってはいけません。 もし、言ってしまえば言った者があなたの代わりに不幸になるでしょう。」 どういう意味だ? 馬鹿馬鹿しい。 そう思い説明書と同じくゴミ箱に捨てた。 しかも代わりに、とはどういう意味なんだ? それにこれを送って来たやつは何を考えているんだろう。 思いつつも現金の束を眺めにやにやしてしまった。

レリン

12年前

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そうだ、親友と飲みにいこう どうせある金だ使わなきゃ損だ、こんなにあるんだからちょっと使ったところで対したことないだろう さっそく携帯を取り出しそいつに電話する。 しかし奴は暗い声で飲める気分じゃないと断ってきた。 俺のおごりで一時間くらい飲むだけと伝えると渋々という形でオッケーを出した。 馴染みの居酒屋でそいつがくるのを待ったがいっこうに来ない どうしたんだろう?

siki

12年前

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奴は約束を破るようなやつじゃない。 きっと…なにかあったんだ。 俺は再び親友に連絡をとることにした。 随分長いコール音のあと、奴がようやく出た。どうしたと声を掛ける間も無く、奴は枯れた声で言った。 すまない、やはり酒など飲めない。 両親が事故にあって、父親が死んだ。 母親は一命を取り留めたがいつ急変するか分からない。 救うには大手術が必要だが、莫大な費用がかかる。 そんな金は、どこにもーー。

12年前

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思考が停止した。自分の内側、奥深くから暗い感情が這い登ってきた。嫌になるくらい静かに、呆けるほど緩やかに。俺はこの感情には見覚えがある。何度も経験してきた。だが今回のこれは違う。全てが違う。今までのやつとも比べ物にならない。強大で、傲慢で、全質量をもって俺を押し潰しにくる。 嫌だ。嫌だ。なんだよ、これ。 奈落の底に落ちて行く感覚 誰か。誰か助けて。お願いだ。 崩れ落ちる体 俺は後悔した

noname

12年前

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全部俺のせいだ。 ボタンを押して不幸になったのは、「俺」だっんだ。 そして俺の不幸が、あいつの両親を殺したんだ。 手紙の「あなたの代わり」って、そういう意味だったんだ。 俺は親友に電話をかける。 「俺には金がある。お前の口座に振り込んでおいた。……じゃあな」 そう言い残して、俺は首を吊った。 ボタンを見つけてから、ちょうど24時間後だった。 次の日、親友のもとに、黒い小包と封筒が届いた。

C.K.

12年前

- 完 -