ナンバー516の男

無機的なオフィスビル。5階でサカタはエレベーターから降りた。何方向にも廊下が放射状に伸びている。 前もって指示された通りCの通路を進んだ。恐ろしいほどに何も音がしない。人の気配も感じとれない。 516のナンバープレートが掛かった部屋のドアを恐る恐るノックした。 返事が無い。 そういえば前もって送られてきた案内状には『15:00に部屋に入りイスに座って待つように』と記してあった。 まだちょっと早いかと思い腕時計に目をやる。 (14:52) やはりまだ早い。 わざわざ、15:00と指定しているのだからぴったりに入室した方が良いだろう。 サカタはもう一度腕時計に目をやった。 (15:00) ぴったり15:00だった。デジタル表示なので見間違えようがない。腕時計が壊れているのだろうか?さっき見た時から1分もたってないはずだが… 気味悪く思いながらもドアを開けた。 狭い鏡張りの部屋だ。 中央にポツンとパイプ椅子が置いてある。

haiirooo

13年前

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すると、どこからともなく 聞き覚えのない 男の声が部屋に響いた。 『よくぞ来てくださいました。早速ですが、サカタさんの目の前に デスクがありますね?その上に置いてあるパソコンを開いて見てください。』 恐ろしい程生気のない声だ。 サカタは立ち上がり、緊張した面持ちでデスクの上のパソコンを開いた。 すると、そこには、見覚えのない男女10人の顔と名前とプロフィールが記載されていた。

mame

13年前

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20〜40歳に見える男女の写真だ。 顔に見覚えはない。 ひとしきり見終わった頃、また放送があった。 「この人たちは、今から事故にあいます。サカタさんはそれを食い止めて下さい。」 意味がよく分からなかったが、 サカタは言いようのない不安にかられた。 そして、次の瞬間。 サカタは歩道橋に立っていた。 なぜ急にこんな所に移動したのか、どうやって?何時の間に? 酷く狼狽した。

noname

13年前

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サカタは冷静さを取り戻そうとした。 きっとこんなのはトリックか何かで、瞬間移動のように感じているのはおそらく背後から薬か何かを注射され、記憶が飛んでいるだけに違いない。 サカタは最も現実的な原因を自分に言い聞かせながら周りを見渡した。 あの女、リストに乗っていた女だ。 名前は確か…

Midvalley

13年前

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と名前を思い出そうとしたが、その横断歩道を渡る彼女に、 サカタのいる歩道橋の下を一台の車が突っ込んでいった。 叫ぶ間もなかった。 皮肉な事にその様子は、歩道橋の上のサカタからはよく見えた。彼女は全身を強く道路に打ちつけたあと、血溜まりの中でピクリとも動いていない。 急停止した車の中から、又もや見覚えのある狼狽した男の顔が出てきた。 その瞬間、彼は大変な思い違いをしていた事に気づいた。

harapeko64

13年前

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事故にあう、というのは被害者としてでも、加害者としてでももあり得る。 サカタはようやくそれに気がついたが、もう遅かった。 事故は起きてしまった。 食い止められなかったということだ。 何かペナルティが課されるのだろうか? サカタは起きた事故を他人事のように、自分のことばかり考えていた。 だが、まだ事故にあったのは十人中のたった二人だった。

Iku

13年前

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落ち着く為に一度深呼吸。 その時間で、サカタは自分が甘かった事を知る。 目の前の事故に動転したのだろうか、対向車が、あろうことか運転席から降りた男に突っ込んで行く。 勢いは止まらず、そのまま男が運転していた車に激突。 そして、まるで映画の様に、二台の車が爆発した。 「な、何なんだよこれ!」 叫んだサカタの頭の中で、声がする。 「概要は以上です。五分の準備時間の後本番となります」 暗転。

ナゾグイ

13年前

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サカタは納得がいかなかった。 何故俺なんだ! そんな思いが、頭の中を駆け巡っていた。 しかし、冷静頓着な声は止まるコトを知らないかのように、始まりのカウントダウンを着々と進めている。 準備時間、残り二分です。 うっ… もうサカタは限界だった。 うわーーーー! 自らが気づかないうちに発狂していた。 俺は…俺は従っただけだー! なのに…何故なんだ? 何故俺だけが苦しむんだ!

にゃん

13年前

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2112年4月某日朝刊より抜粋 政府は増え続ける交通事故の発生件数に歯止めをかける為、新道路交通法を施行する。 重大事故の加害者には『超役』制度を適用。 受刑者は記憶を消されながら何度も自分が起こした事故を再体験することになる。 ーーーーー あの生気のない声が届いてきた。 「貴方に殺された人の遺族はもっと苦しんでいます。さあ、もう一度始めましょうかサカタさん。いや、囚人ナンバー516号」

黒葉月

13年前

- 完 -