「おねえちゃんっていつもそうだよね」 鼻で笑う妹は、これ以上ないくらい不細工だと思う。 「やめてよ」 「黙れクソ女め」 喋れば二言目にこれだ。いい加減にまともな会話を彼女と楽しみたいものだ。そんな願いも叶うはずなく、 「クソって…」 「黙ろうねクソアマ~」 いつからこんな女の子に変わってしまったのだろうか。ほんの少しだけ殴ってやりたい感情が芽生える。それでも私はこのクソ妹が大好きなのだ。
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父子家庭に育った私たち。 女同士、私が母代わりになり、時には妹が母の役を演じて来た。かけがえのない存在。互いにそのはず。そう信じたい。少なくとも、私にとっては。 今は毎度お馴染み、私の報われ無い恋愛相談。話す気は無いのに、いつも聞き出されてしまう。 「おねえちゃんはさ、そもそも叶わない前提で恋してるもんね。告る気なんかないわけでしょ?」 「片想いが幸せなんだもん……」 「なわけないじゃん!」
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「ほんと、アホなの?見てるだけで幸せ~とか吹いてるやつは馬鹿にしか見えない」 まったく、なぜ私より年下だというのにこうも上から目線なのだろうか。 「告る気がないってんなら、そーだなぁ・・・まずさぁ、自分磨きでもしてみたら?そしたら男なんてホイホイ寄ってくるよっキャハハ!」 まぁ言い方は少しアレだが、自分磨きをすると言うのは良い案かもしれない。 しかし私は思った。 お前が自分磨きをしろ。
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見返してやろうと決意したのはそのときだった。 これでいて、案外負けず嫌いなところのある姉妹だ。相乗効果を狙えるかもしれない。 さて、自分磨きの方法が肝心なのだが、まずは対人関係に秀でなければ何事も上手くはいかないだろう。 コミュニケーション能力を伸ばすにはいろいろなイベントに参加し、人との繋がりを求めるべきだ。 文化祭の季節ではないから、国際サミットという留学生とのおしゃべり会に参加した。
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うわ〜なんだか別世界。 あ!あの人カッコイイ〜。あの女の人美人。 みんな、多少は日本語話せるのかしら? そんな事より地道に人間観察なんてしてる場合じゃないわ!交流しなきゃ、交流よ。 …っていってもなんて声をかけたら良いのか…いざとなるとわからないものね。 すると突然誰かが私の肩を叩いた。 「Hi! nice to mee too!」
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May I ask you a quick question? Is this party ... 早口の英語にかたまるバカ姉妹。 おまけに声をかけ来たのが、白人のマイケルタイプじゃなく、アジア系のリーさんタイプなのも萎えポイントだ。 妹は早くもあきらめ顔で帰ろうとしている。私はリーさんが気の毒で動けない。 そんなとき私の背後でたどたどしい日本語が聞こえた。 「お嬢さん、お困りですか?」
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後ろを振り向くと、先程の凛々しい女性の姿があった。 私は硬直して、相手が日本人にも関わらず、 YES! と、連呼してしまった。 もちろん、喋りかけてくれた男性は少し引いてしまっていた。 そして、 sorry… と言い残して去って行った。 落ち込む私の隣には依然として凛々しい女性の姿。 背の高い彼女は、私を見下ろしている。 このままでは先の発展は見込めず気まずい。 『あの…』
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「お邪魔したかな?」 私の声に重なって彼女が少し困ったように笑った。 「いえ、助かりました!」 ガバッと頭を下げる 「いえいえお役に立てたなら・・それに・・ちょっと君が気になってね」 顔を隠すために深めにかぶっていた帽子を取り上げられる。あまり綺麗ではない自分の顔をまじまじ見て一つ頷くと 「うん、やっぱり綺麗な顔つきだね。カサカサだけど、君なら綺麗になれるよ!!」 半ば強引にトイレに連れていかれた
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彼女は女の子の為の魔法をちょっとだけ掛けてくれた。 鏡の中の私は…若く綺麗だった母、その人だった。 「貴女!綺麗ね!さぁ笑って!」魔女さんは私の口角を二本指できゅっと上げると 「トイレから出たら、最初に出会った人に微笑みなさい」と言って、背中をポンと叩いてくれた。 私の一歩は世界を変えた。 眩しい光りの中で最初に出会ったのは… 妹だった。 勇気を奮って微笑むと、 妹も母の笑顔で微笑返した。
- 完 -