ねぇ君は 今どこで何してるの? 幸せなの?不幸なの? 恋人はできた? 新しい友達はできた? 元気にしてる? ねぇ
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私はスマホのメッセージを見て溜息をついた。 元彼からだった。 正直、あいつって本当に馬鹿だ。幼稚だ。ワガママだ。 そんなシツコイところが嫌で別れたのに、未練たっぷり。いい加減にして欲しい。 もう私には新しい彼だっている。 さて、なんて返せばいいかな。
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元気にしてる。 新しい友達も出来た。 彼氏も出来た。 私は今の生活に満足しています。 私を幸せにしてくれる人はもういるので、心配しないでください。 もう二度と連絡してこないでください。 こんなところだろうか。 画面右上にある送信ボタンを押して、すぐに新しいメッセージを開く。 今日の晩飯一緒食べよ^_^ 彼氏の智也からだ。もちろん、と返事をしたところで、着信音。 ……元カレからだった。
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お願い さみしいんだよ。 淋しくて死にそうだからお願い来て。 電話口から聞こえる声にわたしは少し呆れた。 もう電話してこないで。 そう一言いって、相手の返事を聞かずに電話を切った。 元彼の遠い昔の記憶が蘇る、あいつは
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いつも唐突だった。 「今日会える?今すぐ来て」 誘いはいつも相手本位。だけど掴み所のないその横顔を嫌いにはなれなかった。 あいつの中で私は、サークル、友達、先輩後輩、バイト、勉強、飲み会、趣味、数ある項目の最下位に泳がされていた。 釣った魚に餌を与えない男。だから魚はもっと魅力的なウキに食いついた。 でも、と思う。空腹だったからではない、自ら望んで身を委ねたのだ。心地よい今の水槽を出る気はない。
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暫くするとインターホンが鳴った。 智也だ。 冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出し、テーブルに置くと、携帯をソファーに放り出して玄関へ向かった。 「早かったね」 そう言ってドアノブに手をかけようとした時だった。 なんとなく胸騒ぎがした。
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テーブルに置いている携帯が誰かからの着信を伝えている。ドアの向こうにいるのが本当に智也なのか少し考えて、足音を立てないようにテーブルの携帯を見る。 鳴り続く携帯はやがて途切れて留守電にかわった。再生してみると智也からで、 『電車遅延で遅くなるから。また連絡するよ』 ──ドアの向こうにいるのは誰? そう思ったとき再び携帯が鳴る。それは元彼だった。 『早かったねって、待っててくれたんだ。ドア開けて』
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さあっと血が引くのが分かった。 どうする。警察を呼んでしまおうか。ストーカーが来ています、って?相談していたわけでもないのに、警察は動いてくれるのかな。 待っていれば、きっと、智也が来て、追い払ってくれる。…ううん、だめ。電話してくるほどの遅延だ。 ピンポンピンポンピンポンピンポン ガタガタガタガタガタ… 異常な催促に固まる。携帯が着信音をたてた。 『入れてくれないと、近所迷惑になっちゃうよ』
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「ベランダ見ろ!」 元彼が叫ぶ。 カーテンの隙間から男の影が見えた。キラリと何かが光る。包丁だ。 「た、た、助けて…」 その瞬間、包丁を持った智也がベランダから入ってきた。 逃げなきゃ…咄嗟にドアノブに手をかけた。 気づいたときにはもう遅かった。元彼が部屋に入ってくる。しかし、元彼は智也を投げ飛ばし、私を助けた。 「ストーカーのふりをしなきゃ、君は僕を無視しただろ。助けることができてよかったよ」
- 完 -