ミシガン州で墜落したボーイング704便。管制との最終通信から、本機は「蛇のシンボル」を掲げる何者かに占拠されたと判明した。 同時に墜落現場からは搭乗記録の無い「ある貨物」が持ち去られたようだ。 取材を進める中で、私は度々「図書館」と呼ばれる組織に出くわした。彼らが情報規制を引き、これ以上の取材を困難にしていた。 この事件は一体何なのだ… アルター通信社 エマ・ドーソン 取材メモより抜粋
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13日に発生した"ボーイング704便墜落事故 "の取材班であるアルター通信社所属エマ・ドーソン氏が、15日何者かに殺害され遺体となって発見される。 ドーソン氏は事故発生後、この件の取材を独自に進めていた。 同事故との関連も含め、慎重な捜査が進められている。 なお、墜落現場では未だ組織による占拠が続いており、組織はウクライナを拠点とした過激派集団とみられている。 ニューヨークタイムズ紙
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…地面がアイスディッシャーで抉ったみたいに、綺麗に削り取られてたんだよ。 あんなの見たことないから写真を撮ろうとしたらさ、どこからともなく防護服を着た奴らがぞろぞろ来て、何かを調べてるんだよね。 嫌な予感がしてすぐに車でその場を離れたけど、あれは警察とかじゃないと思う。 防護服に悪趣味なマークも付いてたしそれに… ある音声メモより一部抜粋 なお、声の主であるサム・ワイズ氏は現在行方不明である
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デイビスは悩んでいた。 何やら影で大きな組織が動いているらしいこの事件。一刑事の自分には持て余すと思い、苦渋の決断で懇意にしている探偵の元を訪ねたはいいが、その探偵は3つの証言を確認するや否や、依頼主を放ったらかしてさっそく推理に夢中になっている。 「あー、ブラウン。申し訳ないんだが、引き受けてくれるということでいいか?」 この男アーサー・ブラウンは、探偵を名乗るだけあって相当変わり者であった。
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アーサー・ブラウンは煙草を灰皿に押しつけると、デイビスの方を見るわけでもなく頷いた。 思索に耽っている彼を妨げることのできる者はいない。ブラウンの様子は殊更乗り気で、返事だってもらったものの、明日になれば"そんな依頼を受けた覚えはない"などと非難するに違いなかった。 「何かわかったことがあれば、教えて欲しい」 そう、言い残して彼の事務所を出ようとすると、ブラウンは珍しくデイビスを引き留めた。
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「君は真実を知りたくてわざわざ僕のところまで来たんだろう?だったら君にも協力してもらう必要がある」 ブラウンはそう言うと、デイビスの体を事務所の外へと押しやった。 勝手な奴だが、いざとなったら頼もしいので黙って言うとおりにするしかないのである。しかし、今回の事件はいつもと違って一筋縄ではいかないようだ。ブラウンの表情がそれを物語っていた。 事務所を後にしたデイビスはそのまま仕事場へと戻っていった。
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デイビスに盗難車の照会を何件か依頼したブラウンだったが、3週間後、急に連絡が途絶えた。1通の手紙を最後に。奇妙な事にそれはデイビスの母親の家に届いた。 「珍しいわね。届け物かしら」 手紙を受け取りにミズーリの実家に戻ったデイビスは、庭先に止まったバンを見て母親が呟くのを聞いた。宅配業者と思ったのは、荷室の窓が塞がれていたからだろう。 バンには蛇が描かれていた。自らの尾を咥えた蛇だった。
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何かがよぎった。非常に良くないことが起きている。刑事の勘というやつだ。 「こちらデイビスさんのお宅でしょうか」 「はい」 母の答えに男は小包を手渡す。去り際、男は「ああそうだ…」と呟く。 「息子さんに詮索は程々にとお伝えください」 ツバ付き帽に手をかけニッと笑った次の瞬間。 ブシュ──ッッッ‼︎ 小包から物凄い勢いで白煙が上がった。同時にバンが開き、中から黒い集団が近づいてくる。
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家の隠し扉に隠れる 「なぁ、母さん。俺はちぃと仕事があるんで。またちょっと出かけることになりそうだ、それまで待ってくれよな?」そう、それで、この先も生き続けよう…。 「でも、デイビス…」と、言うのを遮る。 白い煙のなかで、少しずつ 少しずつ 動きが鈍くなってゆく… 「母さん…」とガタガタ音を立てている扉を抑えながら、言葉を漏らす。 母さんは静かに俺を抱きしめてくれる…。
- 完 -