Dragon's Effect

スライドを引き、撃鉄を上げる。トリガーに指を添え、ジリジリと歩を進める。 ドアノブに左手をかけ、深呼吸。痛いほどに脈打つ心の臓腑が、私の意識を繋ぎとめる。 弾は一発、チャンスは一度。扉の向こうがどんな状況になっているかわからない以上、突入直後の即座の判断が重要になる。作戦の失敗はすなわち死を意味するのだから。 脳内で3、2、1と数え、一気に扉を開け放って室内に突入した。

やーやー

13年前

- 1 -

青年はにっこりと笑みを浮かべながら立っていた。中国の民族衣装を着ている。横にはチャイナドレスを来た女が寄り添っている。 「やぁ、久しぶりだね。」 標的は一人でいるはずだったのに、女が付き添っていた。面識などないのに挨拶を交わされた。予定外の出来事ではあるが、さほど問題ではない。 素早く青年を観察する。右手の甲に龍を模した紋章ーー。 こいつで間違いない。 俺は躊躇いもなく引き金を引いた。

aice

13年前

- 2 -

「残念極まる。」 そう言って彼は側にあった青龍刀で銃弾を斬った。 割れた銃弾は壁にしっかりめり込み、この銃の威力を物語る。 だがその威力を凌駕するスキルを持ち合わせた彼は造作もないことであった。 「もう終わりかい?それともまだ攻撃の算段があるのかい?」 私の状況は死を覚悟せねばならぬほど絶望的であった。

13年前

- 3 -

やむを得ない。空の銃を投げ捨てる。 丸腰で両手を上げた私に、青年は容赦なく青龍刀を突きつけた。柔らかな笑みが白々しい。 「なんなら今から這いつくばって命乞いでもしてみたらどうかな?」 一歩、一歩、距離が詰まっていく。 青年が青龍刀を振り上げる。 そこから先はスローモーションだ。 女が後ろから陶器で青年を殴りつけた。一瞬の隙に私は青年の懐に飛び込み、無我夢中で青龍刀をもぎ取る。 形成逆転だ。

lalalacco

13年前

- 4 -

と思ったのもつかの間。 咄嗟、女がチャイナドレスの割れ目からスラリと伸びた両足に一方ずつの手をすべり込ませ、そこから忍び込ませていたであろう短銃を二丁抜き出した。 その鈍く光る銃口は微動打にせず、間違いなく我々を仕留めるだけの力を忍ばせた様子でこちらを睨んでいた。 「二人とも動かないで」 万事休すか。

nico

13年前

- 5 -

「裏切ったな!」 青年が叫ぶ。 「私の目的は貴方、ただ一人」 俺も、です。 「その龍の紋章は父の仇!」 「お前があれの娘だったか」 「悪いわね。私一人では難しいから、利用させてもらったわ。青龍刀、離さないでね」 俺はお役目ご苦労のようだ。 気を抜くのが早かった。青年は俺を盾に突き出すと、ドアを蹴破って外に出た。 女に撃たれることはなかった。女は俺に目もくれず、青年を追って階段を降りていく。

aoto

13年前

- 6 -

二人に続かんと階段をすべるようにくだった先、庭園に二人の姿はあった。 青年は羽交い締めにした女のこめかみに銃口あて、今まさに引き金を引こうとしている。なのに彼女は不適に笑っている。 「撃つな!」俺は、二人めがけて疾走する。 俺は見た。彼女が短銃を取り出した刹那。色鮮やかな配線と、黒い箱が彼女の足に絡みつく様を。長年の勘が言う。彼女の命がついえたと同時に… 爆発する。 鈍い音が庭園に響く。

12年前

- 7 -

背中から何らかの茂みに突っ込む。粉塵が容赦無く叩きつけるのを、歯を食いしばってやり過ごす。 残光のせいで視界がはっきりしない。ひどい耳鳴りがする。 俺は必死の思いで体を起こす。建物はとりあえず建っていたが、砂埃の舞う庭園は、次の春に花が咲くのは無理だろうというほど吹き飛んでいた。 はっきりしない焦点を爆心地に合わせる。 霞んだ視界の中、男が女性を抱えるようにして立っているように、見えた。

sir-spring

12年前

- 8 -

砂埃が晴れると庭園には雨が降り出した。 程無くして現場は香港国際警察の車両で埋め尽くされた。同僚は俺に駆け寄り、上着を手渡した。 「フェイ捜査官」 「お怪我はありませんか」 俺は無事を伝えると彼は現場検証へ向かった。 俺は手袋を外す。そこには青年と同じ龍の紋章があった。忌わしき、犯罪一賊の血統は絶やさねば成らない。 俺は目蓋を閉じ深呼吸する。そして拳銃を口に咥え静かに引鉄を引いた…

12年前

- 完 -