日記帳の鍵が壊されていた。 わたしの秘密を盗み見たのは いったいだれ?
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真っ先に思い浮かべたのは七恵だ。 わたしはノックもせずにドアを開け、妹の部屋に入る。彼女はベッドに寝っ転がり、ジャガビーをつまみながら社会科地図帳を眺めていた。 「七恵、あなたでしょ」 その鼻先に日記帳を突きつける。が、七恵は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。 「なあにその本。なんで鍵なんかついてんの? 壊れてるみたいだけど」 意外な反応に戸惑う。七恵じゃ……ない? そうなると、次は──
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七恵の部屋を出て台所へ。 「母さんなの?」 「何怒ってるの?」 母さんは味見の時、熱いとわかっててフーフーしない。「あちち」そうでしょうね。 日記をグイッと突きつけると 「なんなの?あら日記?あんた、日記なんて付けてたの」 もしかして、私、墓穴ほったかしら? 「どんなこと書いてるの?」 「いや、別に…」 「あら、母さんに言えないような事書いてるの?」 はい。だから、部屋へ避難。 母さんでもない…
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…としたら、残るは父さん?うわ!いやだ!最悪! 毎日家族のために仕事して、休みの日には母さんに掃除の邪魔です、とか言われて渋々散歩に出かける父さん。嫌いじゃないけど、なんだか鬱陶しい。帰ってきたら断固抗議するわ。 そう考えながら鍵の壊れた日記帳にこの思いを書き綴っていた。 「ただいま」 帰ってきた。私はバタバタと足音高く玄関へ。 「父さん、聞きたいことがある」 怪訝そうな顔で父が私を見た。
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「なんだ、彩のほうから話しかけてくるなんて、珍しいじゃないか」 心にかすかな痛みを感じつつ、私(彩)は例の日記帳を突きつける。 「お願い、白状して。もう父さんしかいないの。――私の日記帳、鍵こじ開けて読んだでしょ?」 語気を強めて睨む私。でも父は微動だにせず。 「日記?何の話だ?」 顔には多少、落胆の色が見えた。 そんな―― 家族は皆、口を揃えて知らないという。 これは一体、何を意味するのか。
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「んー、そっか。大変だったねー」 夕食を食べお風呂に入った後、自分の部屋に戻った私は相談しようと決め電話した。 しかし彼は全く興味関心を示さない。 「全然心配してないでしょ?聞いてる?泥棒が入ったんだよ?」 私は興味関心を示さない電話先の主にまくしたてる。 「んー、でも本当に泥棒だったら僕じゃなくて警察をー」 ぽち。ぷーぷーぷー。 着信音。ぽち。 「ごめん、冗談です」 「で、この謎解ける?」
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「•••諦めるという選択肢はないんだね」 「何バカなこと言ってんの?私は日記を読まれたのよ?しかもどこの誰とも知らない奴に。絶対諦めないから!」 怒気を含んだ口調で切り返す私。当たり前だ。自分が密かに書いた日記を、知らない奴に読まれたのだ。怒らないわけがない。 「じゃあさ、一緒に調べてあげるから、その日記見せてよ?」 「•••ダメ」 「?なんd•••」 「それだけは、絶対ダメなの•••」
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そう言い放ち、勢いよく電話を切る私。 「秘密は絶対に教えられない」 私は日記をめくった。 日付とは関係無く箇条書きされた文章を、丁寧に1頁目から読み込んでいく。 ・七恵、妹、ジャガビーと地図帳が好き、… ・母、心配性、熱いのにフーフーしない、… ・父、仕事熱心、休日は渋々散歩に出る、… ・彼、童貞、面倒臭がり… ・… これが私の日記。 私の秘密。 ふと、昨晩書いた文章に目が留まった。
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ふと、昨晩書いた文章に目が留まった。 ○月×日 鍵壊れちゃった☆明日忘れないように直そう。 …………………犯人は私か。 妹、母、父、そして頼りない彼、……すまん そう言って私は鍵直しに取り掛かった。 【今日の日記】 ○月△日 鍵を直した。
- 完 -