アリスは信じていた。 自分は某小説の主人公と同じ名前なのだからあの、ワンダーランドに行けると。 同い年くらいの子達が学校に行く中、 アリスは服を着た白うさぎを探すことに夢中。 eat me もdrink meもみつからないそんな世界に飽き飽きしていた。
- 1 -
4月の最初の日曜日はアリスの10回目の誕生日だ。その日までに招待状が届かなければ、無理やりにでも押しかけてやる、そんな不思議な決意を胸に、3月の4度目の土曜日をあとにした。 ベッドの中でアリスは思考する。 あのアリスだって、目が覚めたら元の世界に戻ってたんだよね。だったらその扉って、きっと眠りのそばにあるんだ。でもそれはベッドじゃない。木の根もと。そこで居眠りしなくっちゃ…
- 2 -
木漏れ日が揺れるなか、アリスは眠るのにちょうど良い木の根もとを見つけた。家から持って来た、枕を片手に猫のように丸まって眠りに着く。意外にも草や木の臭いが安心させてくれた。睡魔はアリスにキスをするとすぐに望みを叶えてくれた。 …ここは、どこだろう? 夢の中なのは、知ってるんだけど。 何故か下を見るとそこにはトランプが散らばっていた。時計を持っていたのは、九官鳥‼ えぇー⁉しかも、こっち来る‼
- 3 -
九官鳥はアリスに尋ねた。 「失礼お嬢さん。マーガリンをお持ちではないですか。時計が錆びついて使いものにならないのです」 紳士的な九官鳥が赤錆びた懐中時計を羽根で撫でる。 「ごめんなさい、もってないわ」 「そうですか。いや失礼。錆びを落とすには上等なマーガリンが一番と聞いたもので。いや失礼。では失礼」 背を向ける九官鳥を、アリスはあわてて引き止めた。 「まって、ここはどこなの」
- 4 -
「?おかしなことを言うお嬢さんだ。ここはここだよ。あそこでもあそこでもない。ここはここだよ。おっといけない!私は急いでいるんだ。時間が分からないのだけれど…だからこそいそいでこの時計を直さなければならないのさ」 「あ、ちょっと待って…!」 私の声も虚しく九官鳥は走り去ってしまった。 …うさぎではないけれど、あのセリフはうさぎさんが言っていたセリフとにているわ。 だったら、追いかけなきゃね!
- 5 -
アリスは、必死で九官鳥を追いかけた。 「まって!鳥さん、まってー‼」 何とか九官鳥に追いついたアリスは、九官鳥に問いかけた。 「ねぇ、あなたは何処へいくの?なんでそんなに、急いでいるの?」 九官鳥は答えた。 「これからお茶会にいくのです。あなたもご一緒に、どうですか?」 予想通りだと、アリスは思った。 「行く、行く!行きたーい‼」 アリスは九官鳥と共にお茶会に出る事になった。
- 6 -
お茶会の会場までの道すがら、九官鳥に質問の雨を浴びせた。 「誰が主催のお茶会?ウサギやネズミや帽子屋はいるの?」 「さあ。私はこれから行く身なので、まだその場を知らないのですお嬢さん」 「九官鳥の時計は何故錆びたの?女王のせいね?」 「さあ。私がもらった時にはもう錆びてましたから、知らないのですお嬢さん」 「誰からもらったの?」 前を向いて歩きながら九官鳥は言った。 「白兎からですお嬢さん」
- 7 -
「白兎...?」 もしかして、あの時計の! 「ええ。さあ、着きましたよお嬢さん」 九官鳥が顔を向けた先には、想像よりも大きな机と豪華な食事、沢山の人々 「うわぁっ」 思わず感嘆の声を漏らすと、帽子屋が私に気づいたみたいだ 「これはどうも。二人とも始めて見る顔だね。どうぞ」 手渡された紅茶は素敵な香りで飲むのが勿体無い 「マーガリンを持っていないかい?」 九官鳥が尋ねる 「きっと女王が持っているよ」
- 8 -
プツンと私の意識はここで途切れた。 まさかと思って目を開けてみると、案の定そこはアリスが寝るために選んだ、木の根元だった。 「もう最悪。これからがいいところだったのに…。」 そういって立ちあがると空から、マーガリンが降ってきた。 不思議に思っていると隣に、九官鳥が現れた。 「え⁈九官鳥…。」 アリスはそっと隣にマーガリンを置いた。 「ありがとう。これで時計が直せるよ。」 これは不思議の国のお話。
- 完 -