猟奇的な愛をあなたに
……見つけた。
やっと見つけた。
物陰から熱い視線を注ぐ青年に気付く筈もなく、目線の先の少女は友人達に囲まれて無邪気に笑っている。
あの頃と変わらない面差し、愛らしい仕草。
失った過去が、今手の届く場所に姿を現している。
この時をどれほど待ち侘びただろう。
焦る気持ちを押さえつつ携帯電話を取り出し、素早く文字を打ち込む。
「もう、逃がさないよ…」
彼は、歪に口角を引き上げた。
- 1 -
あれは10年程前……僕は中学生になりたてで、君はまだ小学生になる前だったね。覚えているかな、近所の公園で一緒に遊んだこと。
君は言ったね、「おおきくなったらおにいちゃんとけっこんする!」って、僕は嬉しかったよ。
あれから直ぐに僕は越してしまい、それ以来会わずに時が経ってしまって、でも僕はずっと忘れなかった。
ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……。
青年が見つめる先。
少女が携帯電話を開いた。
- 2 -
通話ボタンを押しながら、少女の頬は薄桃色に染まっていた。周りの友人達は少女のその姿に冷やかしの声をあげている。
「さっきまで一緒にいたのに!」
少女は、照れ笑いをしながら友人達に背を向けた。少女が振り向いた先には青年がいる。少女は気がついていないようだ。
君のそんな顔は見たくないよ。
君は僕のお嫁さんになるんだよ?
だから公園で君を僕のものにした。みんなが君と僕を引き離したけれどね。
- 3 -
彼女は怯えた目で僕を睨みつける。
「……最低。大っ嫌い」
可愛らしい涙声が、僕の心に大きな爪痕を残した。
どうして。
どうしてそんな顔をするの?
昔みたいに笑ってよ。
僕と結婚するって言った、あの時みたいに。
「お兄ちゃん」って呼んで。
僕に振り向いてよ。
明確な拒否の言葉に呆然と立ち尽くす僕を押しのけて、彼女は走り去ってしまう。翻る制服のスカートを眺めて、生温い何かが頬をつたっていった。
- 4 -
どうして君の心は変わってしまったんだろう。僕の心はあの日のまま。君に会わなくても、君の姿がすっかり成長していても、何一つ変わらなかったっていうのに。
青年は昏い目をして携帯電話を開き、文字を打ち込んでいる。
早く迎えに行かなかったから、怒っているのかな。ずっと会いに行かなかったから、拗ねているのかな。
それならもう大丈夫。これからはずっとずっと君の側にいられるように、お金も家も準備したんだよ。
- 5 -
僕は君のことなら何でも知っているよ。話す時に枝毛を伸ばす君の仕草。学校に隠れてやっているパン屋のバイト。お父さんの腰の持病。埼京線から渋谷で半蔵門線に乗り換える通学路。こっそり夜中に餌を与えている野良猫のモモ。トイレットペーパーはダブル派なのは僕と一緒だね。森ガールに憧れて買ったウサギ柄の刺繍のワンピ、とっても似合ってるよ。それから、それから、それから
あ、君の家に着いたよ。
- 6 -
青年は誰に向けるでもなく微笑んで、ふらりと玄関の中に入った。
あぁ、やっぱり今日も家には誰もいないんだね。ここで君を待ち伏せしよう。
そう思った矢先に少女が帰って来た。
腕を掴んでその身体を素早く引っ張った。彼女が驚いて身を引くのを、無理に抱き寄せる。
「っ!離してよ!」
またも突きつけられる、拒絶の言葉。
何故。なぜ僕の想いは伝わらない?
「……ご、めん…ごめんね……好き、なんだ」
- 7 -
僕の言葉に、彼女は怖いものを見るかのような目で僕を見た
何故?何故そんな顔をするの?
「離して‼︎」
彼女は更に暴れようとする
どうして拒絶するの?
僕はこんなにも
君を
「貴方誰⁉︎ストーカーとかやめてよ‼︎」
……彼女は今、なんと言った?
ストーカー?
いや…
誰と言わなかったか?
そんなそんなそんな
僕はあの時から君だけを見ていたのに
君は忘れたの?
僕はこんなにも君を
あぁあぁああああ
- 8 -
「私、彼氏いるし。あなた一体だ…」
彼女の言葉が最後まで聞けなかったのは僕のせいじゃない。
君がいけないんだ。僕を誘惑するようなことだけ言っといて、自分は彼氏を作るなんて。
だから、君が僕に殴られるのは当然の報いなんだ。
気がつけば、僕は息切れしていた。手は見たことのないくらい鮮やかな赤で彩られ、玄関は血の匂いが充満していた。
腕の中で眠る君。
赤く染まった美しい顔に、僕はキスを落とした。
- 完 -
作品情報
猟奇的な愛をあなたに
#11658
- リレー期間
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1年