猟奇的な愛をあなたに

……見つけた。 やっと見つけた。 物陰から熱い視線を注ぐ青年に気付く筈もなく、目線の先の少女は友人達に囲まれて無邪気に笑っている。 あの頃と変わらない面差し、愛らしい仕草。 失った過去が、今手の届く場所に姿を現している。 この時をどれほど待ち侘びただろう。 焦る気持ちを押さえつつ携帯電話を取り出し、素早く文字を打ち込む。 「もう、逃がさないよ…」 彼は、歪に口角を引き上げた。

sakuragi

12年前

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あれは10年程前……僕は中学生になりたてで、君はまだ小学生になる前だったね。覚えているかな、近所の公園で一緒に遊んだこと。 君は言ったね、「おおきくなったらおにいちゃんとけっこんする!」って、僕は嬉しかったよ。 あれから直ぐに僕は越してしまい、それ以来会わずに時が経ってしまって、でも僕はずっと忘れなかった。 ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……。 青年が見つめる先。 少女が携帯電話を開いた。

12年前

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通話ボタンを押しながら、少女の頬は薄桃色に染まっていた。周りの友人達は少女のその姿に冷やかしの声をあげている。 「さっきまで一緒にいたのに!」 少女は、照れ笑いをしながら友人達に背を向けた。少女が振り向いた先には青年がいる。少女は気がついていないようだ。 君のそんな顔は見たくないよ。 君は僕のお嫁さんになるんだよ? だから公園で君を僕のものにした。みんなが君と僕を引き離したけれどね。

12年前

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彼女は怯えた目で僕を睨みつける。 「……最低。大っ嫌い」 可愛らしい涙声が、僕の心に大きな爪痕を残した。 どうして。 どうしてそんな顔をするの? 昔みたいに笑ってよ。 僕と結婚するって言った、あの時みたいに。 「お兄ちゃん」って呼んで。 僕に振り向いてよ。 明確な拒否の言葉に呆然と立ち尽くす僕を押しのけて、彼女は走り去ってしまう。翻る制服のスカートを眺めて、生温い何かが頬をつたっていった。

miz.

11年前

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どうして君の心は変わってしまったんだろう。僕の心はあの日のまま。君に会わなくても、君の姿がすっかり成長していても、何一つ変わらなかったっていうのに。 青年は昏い目をして携帯電話を開き、文字を打ち込んでいる。 早く迎えに行かなかったから、怒っているのかな。ずっと会いに行かなかったから、拗ねているのかな。 それならもう大丈夫。これからはずっとずっと君の側にいられるように、お金も家も準備したんだよ。

lalalacco

11年前

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僕は君のことなら何でも知っているよ。話す時に枝毛を伸ばす君の仕草。学校に隠れてやっているパン屋のバイト。お父さんの腰の持病。埼京線から渋谷で半蔵門線に乗り換える通学路。こっそり夜中に餌を与えている野良猫のモモ。トイレットペーパーはダブル派なのは僕と一緒だね。森ガールに憧れて買ったウサギ柄の刺繍のワンピ、とっても似合ってるよ。それから、それから、それから あ、君の家に着いたよ。

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青年は誰に向けるでもなく微笑んで、ふらりと玄関の中に入った。 あぁ、やっぱり今日も家には誰もいないんだね。ここで君を待ち伏せしよう。 そう思った矢先に少女が帰って来た。 腕を掴んでその身体を素早く引っ張った。彼女が驚いて身を引くのを、無理に抱き寄せる。 「っ!離してよ!」 またも突きつけられる、拒絶の言葉。 何故。なぜ僕の想いは伝わらない? 「……ご、めん…ごめんね……好き、なんだ」

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僕の言葉に、彼女は怖いものを見るかのような目で僕を見た 何故?何故そんな顔をするの? 「離して‼︎」 彼女は更に暴れようとする どうして拒絶するの? 僕はこんなにも 君を 「貴方誰⁉︎ストーカーとかやめてよ‼︎」 ……彼女は今、なんと言った? ストーカー? いや… 誰と言わなかったか? そんなそんなそんな 僕はあの時から君だけを見ていたのに 君は忘れたの? 僕はこんなにも君を あぁあぁああああ

那柚汰

11年前

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「私、彼氏いるし。あなた一体だ…」 彼女の言葉が最後まで聞けなかったのは僕のせいじゃない。 君がいけないんだ。僕を誘惑するようなことだけ言っといて、自分は彼氏を作るなんて。 だから、君が僕に殴られるのは当然の報いなんだ。 気がつけば、僕は息切れしていた。手は見たことのないくらい鮮やかな赤で彩られ、玄関は血の匂いが充満していた。 腕の中で眠る君。 赤く染まった美しい顔に、僕はキスを落とした。

Dangerous

11年前

- 完 -