café Le côté La plage

café Le côté La plage

café Le côté La plage

とある横浜の喫茶店。
マスターにいつものコーヒーを頼む。出てくるのは勿論、スペシャルブレンド。心優しいマスターが常連である僕の為に自分で厳選した豆を丁寧に炒り、僕の好みである粗挽きにしてから適温で淹れてくれる。

一口目は先ずブラックで戴く。
深みとコクがありキレと酸味と苦味の絶妙なハーモニー。

これで350円というのだから驚きだ。

- 1 -

「うまいだろ」
マスターが意味ありげに聞いてくる。
「わかってんなら聞くなよ」
と答えると、マスターはにやにやしながら仕事に戻った。ここに通うようになってから、僕はずいぶんマスターと親しくなった。

すると戻ったと思ったマスターがまたこちらのカウンターのほうまで来て、
「今日はまだ来てないぞ」
と僕に耳打ちした。誰のことなのかは一瞬でわかる。ここで見かけて一目惚れしてしまった女性のことだ。

春風さくら

- 2 -

といっても僕は彼女の名前すら知らない。むろん、今まで話したこともない。だから僕は密かに彼女の事を、マドンナと呼んでいる。

彼女もこの喫茶店の常連らしい。
日当たりのいい、窓際の隅の席が彼女の特等席。いつも一杯のコーヒーを頼み、読書しながら一時間程過ごしている。

彼女の茶色がかった髪と可愛らしい雰囲気、何より時折見せる朗らかな笑顔に僕は一瞬で落ちてしまった。

今日こそ彼女と話せたらいいのだが。

古都の三日月

- 3 -

カラン…

店の扉が開くと、やはりマドンナだった。マスターが彼女を特等席に案内する。
彼女はとろけるような笑顔をこぼしながら、いつものお願いね、と告げた。
そして彼女は座ってすぐに本を開いた。

マスターが目で合図してくる。
"今がチャンス"

僕は機会を逃すまいと、意を決して席を立った。彼女の特等席へ近付くと、ふわりとコロンが香る。彼女が僕に気付いて、綺麗な顔をこちらに向けた。
「あの…」

yuunagi

- 4 -

「お隣り、いいですか?…」
「えっ、あぁ…どうぞ。」

記念すべき最初の会話はぎこちなくなってしまった。彼女が隣りのイスに置いてあった自分の鞄をどかし、僕に席を譲る。

「あの…いつもこの席で読書されてますよね?」

次に続く会話が思い浮かばず、つい口から出てしまった。彼女は驚いたのか、戸惑ったのか、なんとも複雑そうな目で僕を見つめ返し、一言「はい…。」と頷いた。

マズイ…不審がられたか…。

tink。

- 5 -

彼女はすぐに視線を本に移す。
読書の邪魔をしてしまっている。でも、話はしたい。どうすればいいんだろうか。
このままでは、ただの不審者だ。

「あの、あなたもこの店の常連さんですよね」

彼女は本に視線を集中させたまま、僕をみようとせずそう言った。

「珈琲、お好きなんですね。必ず一口目はブラックですもの」

囁くような彼女の声。ほんのり顔を赤らめながら彼女は、僕を見た。

「え?」

驚いた。

- 6 -

まさかマドンナが僕のことを見ていたなんて。いつも、ということはそういうことなんだろう。マドンナはまた本に目を落とす。茶の髪の隙間から少し赤く染まった耳が見えた。もしかして、照れてるのか。

「あ、はい。好き、です。」
「わたし、お砂糖いれなくちゃ飲めないんです。」

子供っぽいでしょう。そう言って彼女は笑った。コーヒーの香りと、彼女の甘い雰囲気に当てられて少し酔ってしまいそうだ。

さとう

- 7 -

「お待たせしました」
マスターが彼女にコーヒーを運んで来た。香り立つ湯気に、彼女が目を細める。

マドンナが閉じた本のタイトルを見て、僕は驚いた。

「その作家、僕もよく読みますよ。デビューの頃から好きで…」
「私もです。来月の新作が楽しみで」

嬉しさに、思わず彼女の手を取りそうになって、慌てた。

我に返って逸らした視線の先には、砂糖を入れるスプーンに添えられた細長い指。

心臓が、うるさい。

- 8 -

「…新作、読んだら感想を教えてもらえませんか?」
思い切って彼女に言った。喉がカラカラだった。

彼女は驚いた顔で僕を見て、そしてそっと笑顔になって頷いた。僕が何度も空想した仕草そのままで、グッと心臓を掴まれた気がした。

今度の新作は茶色い髪の女性がヒロイン。もちろん、彼女をイメージして書いた。海辺のカフェでの運命的な出会いから始まる、小さな恋のお話。

彼女は気付いてくれるかな、僕の想いに…

ぶる〜

- 完 -

作品情報

café Le côté La plage

#2084

リレー期間

2ヶ月