感情論サークルの日常的問答

「手動の対義語は?」 「足動」 「最早曲芸ね。生物の対義語は?」 「発酵物」 「食品の話しと違うわ。では無駄の対義語は?」 「有駄」 「どちらにせよ駄はつくのね。では、恋の類義語は?」 「邯鄲の夢」 「間違いではないわ。眠るの対義語は?」 「眠れない」 「レポート提出の前日とかね。異性の好きなタイプは?」 「質問しない人」 「興味深いわ…。安心の対義語は?」 「借金」

朗らか

11年前

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「あらそう。じゃあ夢の対義語は?」 「堕落」 「悲しいわね。ところで泣くの類義語は?」 「とりあえず笑ってみる」 「場合によっては正しいかもしれないわね。じゃ、正しいの対義語は?」 「自分の信条」 「まあそんなこともあるわよ。好きの類義語は?」 「憎い」 「あらまあ。嫌いの類義語は?」 「憎い」 「どっちも一緒なの? じゃあ、憎いってどんな意味かしら?」 「悔しいってことさ」

kam

11年前

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滔々と問答を続けているのは、少なからず彼への興味があるからなのでしょう。 大学生になったばかりの私は、執拗に勧誘の手を伸ばしてくる数多のサークルに嫌気が差して、人気のない場所を探していたのでした。 そんな折に、目についたのが彼のサークルでした。それはサークルと言うのも憚られるほどで(だって部員は彼一人なのですから!)私はその場で入部を申し込みました。彼は私に言ったのです。 「入部の対義語は?」

aoto

11年前

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「解脱。究極の境地つまりは捜さないで下さい」 間髪いれず答えた私の顔を、彼はまじまじと見つめてきました。 その生物学者さながらの観察ぶりは、控えめに言っても花の乙女に向けるにしては不躾なものだったのですが… 嫌な気は起きませんでした。寧ろこの瞬間、数多の砂利から砂金をすくい上げたかのような気持ちでいたのです。 それはお互い様だったようで。彼は言いました。 ようこそ、感情論サークルへ──と。

おやぶん

11年前

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感情論サークル。 活動内容は、日常生活の中で発生したあらゆる疑問を己の感情に基づいて回答を出す事。それだけでした。 今この世界に必要なのは、どんな人でも知っている様な一般論では無く、感情論。 しかし、ただ単に感情をぶち撒ければ良い訳では無いそうです。 自分の意見をどれだけ感情的、かつ論理的に表現して相手に伝えられるか。 その限界に挑むのがこのサークルだと、彼は楽しそうに言いました。

Felicia

11年前

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なんか馴染めねぇ… 数週間ぶりに顔を出した。居る者同士、向かいあって訳のわからないやりとり。 「地下鉄の対義語は?」 甲州街道、と頭に浮かんだ。地上だし徒歩用の道だ。 「バード・フライト・ライン」 ちぇっ、横文字使いやがって。 勧誘してた子が可愛かったからつい入ってみたが、活動内容がさっぱり理解できない。イラつくのは、正確もハズレもないこの一問一答ぶり。禅かよ。何がしたいんだ?

en_moan

10年前

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4月が終わって、桜もチラシも舞わなくなった。一日中誰かしらが声を掛けてくれる生活も終わった。 6月。私に声をかけてくれる人はいない、強いて言うなら- 感情論サークル あの時は確かに楽しかったが、冷静になると馬鹿馬鹿しい。禅問答はあの人が1人でやっていればいい。罪だ。こんなサークルに貴重な桜の4月が無駄となった罪は深い。「罪の反対は……」 「罰」彼の声が、聞こえた。

ayagi

9年前

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「罪の対義語は、愛だ」 彼は、淡々と言った。彼ならば、その答えを知っていると思い聞いてみたが、今回は感情も論理もさっぱりわからない。 もちろん分からないからこそ彼に聞いてみたのだが。 それから、四六時中この言葉の意味を考えて見たが、意味は分からない。 分からない。 彼は分かる。 私は分からない。 彼なら分かる。 私は、本当にしょうもないと見限ったサークルに再び足を運び彼の元へ向かった。

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彼は、私が情報クラスで出会った、おそらくはなにかの間違いでここに辿り着いてしまったのであろう後輩の男を前にして、滔々と感情論を繰り広げていた。 「つまり、僕は行き詰まったということだ」 「たしかにあんたの話は息が詰まるな」 「友や恋の類義語を見つけることは容易い」 「そうか?」 「だが、彼女の類義語は見つからない。対義語も」 そりゃあ、と情報クラスの男は頬をかいた。 「あんた、寂しいんだよ」

まーの

9年前

- 完 -