夢を持つ。それは、自分の将来を考えるということ。大きな夢を持つ人もいれば、身の丈にあった夢を持つ人もいる。どのような夢を持つかは、人それぞれ。たとえ無理な事でも、夢がある分マシである。 しかし残念ながら、私にはその夢がない。もちろん、将来について考えた事はある。でも、どれも自分の興味深いものはなく、その仕事をしている自分が想像出来ないのだ。 こんな自分を変えるべく、私、暁皐は先生に相談しに行った。
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チョークで汚れたクタクタのスーツで出迎えたのは、担任の山村ちゃんだ。 「お前、特技は?」 「わからーん」 「何かあるだろ。好きなことは」 「特には」 本当だからしょうがない。 人と引き比べたことも無ければ、自分でこれが得意、これが苦手と感じた経験も無い。趣味も無い。そもそも好き嫌いと言う感覚があまりない。そう言うと山村ちゃんはポンと膝を打った。 「だったら普通人がやりたがらない仕事はどうだ」
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普通人がやりたがらない仕事… 「……例えば?」 「え。あぁいや、…そうだなあ……」 あー山村ちゃん、困ってる……。 私はつまらなさそうに言った。 「何だぁ」 ちょっと期待したのに、と口には出さなかったけど。 「それを探すのもまた、人生の楽しみだろ?」 ふうん。そんなものだろうか。 「とりあえず、散歩にでも行ってみたらどうだ。道中見つけた物のスケッチをしてみるとか、写真を撮ってみるとか」
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「え〜、ちょーめんどいじゃん」 「だってお前、自分が見えてないんだろ?よし、今日から毎日俺の所に提出しろ。ただし、写メとかプリクラは不可だ。いいな」 「え〜やだ〜」 「え〜え〜言うな!提出しなかったら内申点下げるぞ!」 という訳で、山村ちゃんに毎日宿題を出す羽目になってしまった。 だが、正直絵は苦手…。 写真も友達との写メとプリクラしか撮った事がない。 何とかしないと…。 そして次の日。
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雨だった。 とりあえず散歩行くだけ行こっかなと思ったらいきなりこれだもん、やる気なくすし。 窓から外を見る。 あー無理無理、雨やばい。ほらPM何ちゃらとか言うじゃん、雨に濡れるとか無理無理。 と。 窓枠に鮮やかに小さな緑色を見つけた。アマガエルだ。 あ、これでいいかも。 ひらめいてノートを取り出した途端、カエルが窓に飛びついた。 慌てて描き始め、気付いたら日が暮れていた。 …これ何か意味あんの?
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「先生、宿題」 「おっ、持って来たか」 当たり前だろ〜内申点下げられたらたまらんもね。 「何?」 「アマガエルです」 どっから見てもアマガエルだろ! 「お前、ちゃんと見て描いたか?」 「ちゃんと見て描きましたよ!」 「アマガエルに尻尾あったか?」 「へっ!」 アマガエルに尻尾、カエルに尻尾は無いよな何で描いたんだろ〜 「これだも、自分の事も見えん筈だなぁ。まぁ、明日も俺を楽しませてくれ」
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「先生バカにしてるな、ありゃ。」 俺は先生がいないのを確認してから呟いた。 「めんどくせー」 今日も帰ったらまたやらないといけない。 「たりー」 ーーーーーー 俺は授業中何の絵を書くかずっと悩んでいた。書くならすげーもん書きたい!て思ったら、気づけば頭の中は絵の事で埋まっていた。
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ううん、と悩んでいるところに丁度今、授業の担当をしている山村ちゃんが目に入る。 山村ちゃんは、当てられだけど問題が答えられない生徒を見て少しイタズラっぽくニヤニヤとしていた。 しばらく悩んでいた生徒が問題が分かったらしく答えを出した。 「できるじゃないか」 そう言ってニッと笑った山村ちゃんの笑顔は父親のような笑顔で …俺はその笑顔をキャンバスに残したいという気持ちにかられた。
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俺は山村ちゃんの観察を始めた。 内容は話さず、今回の絵は一日じゃ描けないと言ったら、先生は出来上がったら持ってこい、と言った。 絵は家に帰って描いた。細部は授業中ノートにスケッチして絵に描き加えた。 「…できた」 翌日、3日かけた渾身の作を先生に見せた。 「…誰だ?」 「えぇー!?」 「冗談だ(笑)うん…よく描けてる!いい絵だ」 なんだか嬉しかった。 「先生、今度は自分でやりたい事探してみるよ」
- 完 -