筋書きどおりのミスキャスト

私は役者だ。今回、ドラマに起用された。 だが、撮影現場に着いたとき、私は目を疑った。 主演は、大柄のたくましい人をイメージしていたのだけれど、そこにいたのは、細身で見るからに神経質そうな男性だったからだ。 明らかにミスキャストじゃないかと思ったけれど、監督は自信ありげに何度も頷いている。 とりあえず、挨拶だ。 「はじめまして。ヒロイン役の佐藤です」 「山本です…」 彼はおどおどと微笑んだ。

cloche

13年前

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ドラマのストーリーは傍若無人の借金取りである夫と、その夫(山本さん)からDVを受けながらも支える妻(私)の話である。こんな人にこの役が務まるのだろうか。不安である。 「山本さんって、ドラマの主演ってなされたことあるんですか?」 「あっ、はい」 「今回のドラマって借金取りのお話ですよね」 「あっ、はい」 「暴力シーン多い見たいですけど大丈夫そうですか?」 「あっ、はい」 コピペだ…私の不安は最高潮に

13年前

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最初のシーンは仕事から帰った夫が出迎えた妻の態度が辛気臭いといきなり暴れ出すシーンだ。 随分とばしてるなこの脚本。大丈夫なのか! 「スタート!」監督のドスの効いた声がスタジオに響く。 山本さん明らかにてんばってる。 唇も膝も震えてる。あんたが怯えてどうする! 山本さんが弱々しく私を突く。 「カット!」 監督が飛んでくる。 「暴力とはこうすんだ」 私の髪を掴んで引きたおすと腹を二発蹴った。

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「ぐっ………」 朝、食べたモノを戻しそうになった。 すぐには立ち上がれないほどの衝撃、精神的にも肉体的にも… 山本さんは傍らで白い顔をしている。 「そいじゃあ、いくぜ。山本、いいな?」 「はっ、はいっ」 山本さんは私の髪を掴んで… あー、そんなんじゃダメ! あんたがしっかりしてくれなきゃ、また私がやられちゃうじゃん! ほら… 「やっまもとぉー、てめぇやる気あんのかぁー⁈」

Noel

12年前

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監督は山本さんの胸倉を掴んで殴りかかった。咄嗟に私は止めに入った。 「監督!主演を傷つけたら…」 「うるさい‼」 私は逆に跳ね飛ばされ、机の角に頭をぶつけて気絶してしまった。 …どれ位時間が経っただろうか。 気が付くと、私は病院のベッドの上にいた。 後で聞いた話だが、あの後監督は傷害で警察に連行され、残ったスタッフで監督代行を立てたり、スケジュール調整したりと、現場は騒然となったそうた。

hyper

12年前

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「こんにちは」 このか細い声は!勢い良く声のほうへ顔を向ける。 「アタタタ…」 「すいません。僕のせいで」 やっぱり山本さん。しかもあなたのおかげで危うくまた脳震盪でしたよ。 「主演がこんなところで何してるんですか?」 声が少し冷たくなるのは仕方ないよね。でも、途端にオドオドし始めるこの人見てると私が悪いような気がしてくる。 「まだ、スケジュールの調整中みたいで…それに…」 何?早く言いなさいよ!

nopoint

12年前

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「あの監督をおびき出す作戦だったとはいえ、あなたにこのような傷を…」 は…? 「作戦…?」 「はい。あの監督、撮影現場での横暴さが目に余っていまして…キャスト方からの通報が相次いでいたんです」 「待ってよ、それと山本さんと何の関係が…」 「あぁ。僕、表向きは役者なんですが、本職は警官なので」 …は。 「なんだって?!」 「オドオドしたフリしてすみません…」 「いや、そこじゃなくてね?!」

syan

12年前

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「私には何も言ってくれなかったじゃない!」 警官は、申し訳なさそうに目を伏せた。 「ちょっと!なんでよ⁉︎」 警官は目を泳がせる。 イライラ。 「なんなの?もしかして女優の私を信用してなかったの?こいつに言ったら演技がわざとらしくなるって⁉︎ありえない‼︎‼︎ 私だってプロよっ!プライドっても「ち、違いますっそんなんじゃなくて…」 「じゃあ何⁉︎」 あー、私相当イライラしてる。

moti

12年前

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山本さんを睨みつけると、彼は淡々とした口調で 「本来の目的は貴方なんですよ」 そう、言った ーは? 「え、どういう…」 「実は、今まで私達は秘密裏に貴方を捜査していたんです、しかし、どうしても証拠が掴めなかった…でも、貴方が入院し、病院で精密検査が受けたおかげでようやくしっぽを掴めました、監督の話はまさに渡りに船でしたよ」 そして彼は言った 「佐藤さん、麻薬所持の容疑で、貴方を逮捕します」

kituneko

11年前

- 完 -