坂~道~をーーー ぶたが走る ぶたが走る ぶたがっ走る~~ ブゥブゥぶひぶひ ブゥブゥぶひぶひ ぶたがっ走る~~ウッ! 坂~道~をーーー ぶたが転がる ぶたが転がる ぶたが転がる転がる転がる! ブゥブゥゴロゴロ ブゥブゥゴロゴロゴロゴロ ゴロゴロ!ゴロゴロゴロゴロ! ぶたが転がる転がる!ブーッ! ブヒブヒゴロゴロ ブヒブヒゴロゴロ ゴロゴロゴロゴロゴロゴロぶひぶひ ゴロぶひゴロぶひ
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「パパ〜!『ぶたまるくん』はじまるよ〜!」 「おっ、そうか。よ〜し、今日も一緒に踊るか!」 「うん!」 こうして我が家の一日は、TVから流れる曲とそれに合わせた息子と主人のダンスで始まります。 このアニメ『とびだせ!ぶたまるくん!』は今や子ども達に絶大な支持を受けています。 でも、我が家にとって『ぶたまるくん』は他とは違う一面があります。 「ね〜、『ぶたまるくん』ってママがつくったんだよね〜」
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そうなのです。 私こそ、ぶたまるくんの作者。 小さい頃から漫画家を目指していて、暇さえあれば絵を描く日々でした。 漫画家を目指し始めたきっかけは、あまり覚えていません。ただ絵を描くのがすきだったのか、お話が好きだったのか、気まぐれなのか…今となっては、絶対にわからない謎です。 中学生になってからは、いろいろな漫画に応募しましたが、ことごとく落選……泣 しかし私はアニメの世界に踏み込んだのです。
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私が働き始めた頃のアニメ業界は、日本を世界にアピールしていかなければならない時期でもあり、質より量が求められました。 そのおかげでアニメーターに暇はありませんでしたが、技術と筋力はすぐにつきました。 それから十年ほど、アシスタントとしての下積みをしてから、私は仕事とは別に『ぶたまるくん』の構想をしはじめました。 ぶたまるくんのモデルは、下積み時代に私を可愛がってくれた印象的な監督さんです。
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「ブゥブゥぶひぶひ」 「ブゥブゥぶひぶひ」 息子と主人が音楽に合わせて軽快におどる。 見ていて少し恥ずかしいけれど、とても幸せなひと時だ。 「よーし、ママも踊っちゃおっかな」 「わー」 「おお!プロの踊りだ」 主人が私を茶化す。 そうして三人は約一分間踊り続けた。 そんな朝が毎日続くと思っていた。 『とびだせ!ぶたまるくん!』の打ち切りを告げらるまでは…
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「なんで打ち切りなんですか! 映画化の話だってあったのに…」 私はプロデューサーに詰め寄りました。息子のように『とびだせ! ぶたまるくん』を楽しみにしている子供たちを悲しませたくはありません。 「上の判断だ。とある人物から圧力が掛かったらしくてね。知ってるかな、『ピリ辛! 歌磨呂くん』の監督で…」 私は耳を疑いました。 圧力を掛けた人物とは、かつて私を可愛がってくれた監督さんだったのです。
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「えっ……今、ピリ辛!歌磨呂くんって言いましたか………?」 私はしばらく、何も考えることができませんでした。 この時プロデューサーが喋っている言葉も全てうわの空でした。 溢れ出る涙と壊れそうなほど痛む胸。 「ブゥブゥぶひぶひ!ブゥブゥぶひぶひ!ねぇ、ママも一緒に踊ろう?」 息子の無邪気な笑顔が脳内を横切る。 同時に初めて監督と会った日の事を思い出しました。 後日、私は監督と会う事にしました。
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久しぶりに会った監督は昔と何も変わらない、ぶたまるくんそっくりの顔で、私に笑いかけてきました。 「やあ、お久しぶり」 私はその笑顔を前に何を言ったら良いか分からなくなって、挨拶もせぬまま打ち切りに対する不満をぶつけました。感情が昂ぶってしまっていたので、今思うと少々汚い言葉も使ってしまっていたように思います。 監督は私の話を最後まで黙って聞くと、ゆっくりと口を開きました。 「君、変わったね」
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監督は少し寂しそうな表情を見せました。 何故そんな顔をするのか、私には分かりません。 「君はもう、人の親なんだね」 独り言のように呟いていました。 私はどう返せば良いか分かりませんした。 後日、編集長から連絡がありました。 「監督が打ち切りを取り下げた」 諦めきっていた私は驚くと同時に、少し複雑な気持ちになりました。 ぶたまるくん。 監督の分身。 今日もテレビの向こうで、彼は私たちを笑顔にします。
- 完 -