" " must go on.

僕の机の上に、”それ”は突然現れた。 ピンクで豚の形をした”それ”は、僕にこう言った。 どうも、貯夢箱です。私に夢を貯めてください。 いいですか、お金じゃなくて、夢ですよ。 叶えたい夢、叶わなかった夢などを貯めてください。ただし、7つまでです。 いっぱいになったら、遠慮なく割りましょう。 貯め方?ああ、入れたいと思えば勝手に入るので、ご心配なく。 何に使うのかって? …それは、あなた次第です。

ウサナギ

11年前

- 1 -

叶えたい夢、叶わなかった夢…言われた瞬間に僕の頭の中には、ある記憶が蘇った。喋る貯金豚の様な不思議生物よりも、あの出来事、僕の一番叶えたいのに叶えられなかった夢の記憶が心を揺さぶった。 「藤崎さんを彼女にしたい夢、貯夢りますブ〜」 ピンクの豚はそう言うといきなり僕の頭に鼻で吸い付き、七色に輝きはじめた。 『好きです!』『ごめんなさーーーぃ』 藤崎さんにフラれても、諦め切れない夢が吸い込まれた。

真月乃

11年前

- 2 -

何か、清々した様な気がする。 「ほかに夢はあるブー?」 社会人も3年目。捨てた夢など山ほどある。 子供の頃は野球選手になりたかった。 中学生で、医者になりたいと思った。 高校に入って軽音を始めた時は、歌手になりたいと思ったこともあった。 そこそこ有名な私立大学に入学した辺りで、適当に遊んで、就活して、サラリーマンになろうと思った。 「夢を三つ貯夢だブー」 あと三つまで入れられるらしい。

terry

11年前

- 3 -

「あと三つねぇ…」 少し悩んだがこれにした。 「起業すること」 具体的に何をどうしたいかは決まっていなかった。けど今の職場にずっといる気は無かった。 俺が勤めているのは小さな映像制作会社で、まだまだ設立したばかりのベンチャー企業だ。 仕事内容は嫌いじゃ無かった。ただいつも納期に追われ、繁忙期は会社に泊り込み土日も出勤。社長は横柄で人使いが荒く、いつも人の悪口をねちねち言う同僚にもうんざりしていた。

sabo

11年前

- 4 -

理想の会社を自分で作れたらどんなにいいだろう。 でもそんな資金はない訳で。 宝クジでも当たらない限り夢のまた夢だ。 「夢二つ、貯夢りますブ〜」 豚が七色に光る。 「え、起業したいって思っただけなのに、なんで二つ?」 「宝クジだブ〜」 「起業の為の資金なんだからそこはセットでよくない?」 「もう貯夢っちゃったブ〜」 貯夢れる夢は、あと一つか。 でも、七つ貯めて割ったらどうなるんだろう?

hayayacco

11年前

- 5 -

にしても、あと一つか。何かあったかなぁ。 ……俺は、自分の事しか考えていない己に気付いた。 自分の夢なんだから、自分の事だけでいい。それはそうかもしれないが、それ"だけ"でいいのか。 「そうだな……ありきたりかもしれないけど、やっぱ、いつかはちゃんと親孝行をしてあげたいな。具体的には決まってないけどね」 「夢七つ、頂きましたブ〜」 豚は同じように七色の光ったが、すぐどす黒い色に変わってゆく。

kyo

11年前

- 6 -

「え…これってまさか、割ったら悪夢に変わる…的な?」 「あ、これは単なるデザイン変更だブ〜」 紛らわしい事すんな!てか、デザイン変更って何だよ! 「ともかく、あとは必要な時に割ってくれだブ〜」 「必要な時?」 「…」 それから黒豚は、一言も言葉を発しなくなった。 俺は黒豚を手に取って振ってみた。 ガシャガシャ…かなり詰まった音がする。 重みも結構ある。 だが、俺にとって必要な時っていつだ?

hyper

11年前

- 7 -

それからだいぶ年月が経った。 会社に追われ、人付き合いに追われ、世間に追われる日々。僕は何をしたいもなく、唯々生きるために…何故生きるのかもわからずに…毎朝起き、仕事に行き、そして寝た。 そしてある日…僕は仕事さえも失った。 何をするもなく、仕事を探すでもなく、貯金で食いつなぐ生活は、とある夢によって終止符をうたれた。 朝、のそのそと煎餅布団から這い出た僕は呟いた。 「貯夢箱…」

- 8 -

それはすぐに見つかった。ベタに押入れにしまいこんでいた黒豚に腕を伸ばし、手が触れた途端、耐え難い苛立ちがつのり、我を忘れた一瞬のうちに豚は床の上で粉々になっていた。 忽ち夢みていた時の思い出が、忘れきっていたものまで何もかも頭の中に溢れ、感情の制御が出来なくなった。絶叫する顏は涙と鼻水でひどい有様だろうが止められない。 数分の後に濁流は終わった。 さて、全てを洗い流した僕のその後はまた別の物語で。

mochi

11年前

- 完 -