「お前、このバケツの水飲むんでしょ?」 同じクラスの女の子達から、いじめられるようになったのは、中2の夏くらいから。全ては自分が悪いって思ってる、そう思わないと生きていけないから。私が、暗くて授業中も何も言えないでいたのが悪いの。私の家が、貧乏なのが悪いの。中3の春頃になると、女の子達はもっと怖くなった。 「お前は、1人で便所飯してろし」 「ウケるう」 「まぢキモくてくそワロタ」 怖いよ。
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最近では、日に日にエスカレートしていく、いじめに耐えきれず、学校に行かないで休む日が増えていた。 「タエちゃん、今日も学校行かないの!、行かないで困るのは、タエちゃんなのよ。」 そんな事、分かっていた、そんな自分を情けないと思いながらも、身体が動かない、脳から、登校前に危険信号を発信していて、自己防衛反応を起こしていたからだ。 「体調が、本当に悪いの!。」 頭痛や気だるさ、登校のストレス反応だ。
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厄介なのはただ学校に対して拒否反応が出ているだけで 身体自体が病んでる訳ではない事だ。その証拠に登校時間が過ぎれば拒否反応はピタッと止まる。そうやって日々 午後になればけろっと治る 私を見て母がただのずる休みだと思い私の苦しみに 気づけないのも仕方がないのかもしれない。自分でも特に風邪でもなんでもないのに 休んでしまう事に罪悪感を 感じてしまう。 どこにいても辛い、苦しい。 でも…行きたくない。
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そんな生活を続けて一ヶ月くらい過ぎた。 お母さんは最早私が学校に行くことを諦め気味。 私も、動かないことになれてしまった。まるでサナギの中に閉じこもるように。 リリリリ…朝のコールが鳴る。 お決まりだ。学校の先生。 クラスの状態を知ってか知らぬか、毎朝「調子はどうでしょう」と問いかけてくる。 私の代わりにお母さんは「あまり良くないようで…」と答える。 お決まりコース。 私は布団に潜り込んだ。
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「はい…それでは…」 いつもこの台詞で電話を切る。 そしてその足でお母さんは私の部屋へ歩いてくる。 「タエちゃん、先生もクラスのみんなも具合良くなるの待ってるって」 嘘だ。 みんな、先生も心の中ではどうせ私のことを笑ってるんだ… 「それと、中学を卒業した後の進路もきちんと考えときなさいって…学校に来ないと高校に成績を送れないんだって…」 うるさい。そんなことわかってる。でも体が動かないんだ。
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どうやったら楽に死ねるのかな。 死ねば、テレビの電源を落としたのと同じだろう。プッ、と切れて終わり。高校に行けないかも、とか、虐めに耐える、とか、全部、終わり。 自然とそんな風に考えるようになっていた。 さすがに、死体がグチャグチャなのは嫌。首吊りに失敗したら嫌だな。薬とか苦しそう…そう考えると、死ぬのも楽じゃあないと気がついた。 待てよ、おかしくないか? 死ねば損をするのは私だけじゃない?
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クラスのみんなも、先生も、きっと私が死んでも損なんてしない。 みんなは私の死を聞いてケラケラ笑うんだ。 先生は不登校の生徒がいなくなって安堵するんだ。 死んだ私を笑うんだ。 そんなの嫌だ。 あいつらみんな苦しめば良いとは思っているのに、なんで私の命で笑いを提供しなくちゃいけないの? 死にたくない。 漫画みたいに私の前に救世主が現れて助けてくれる明るい未来はなさそうだけど、まだ死にたくない。
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その日の夜、私はこっそり学校へ忍び込んだ。久しぶりに来た学校は何も変わってなくて吐き気がする。でも、この広い学校に1人だと思うと気分が高揚した。 何かでっかいことをやってやろうと思った。 私をいじめた女の子達にも、心配する振りの先生にもできないこと。 大っ嫌いな学校に、買ってきた色とりどりのペンキをぶちまけた。そして筆を躍らせる。色が混ざって黒くなったところは黄色い星をつけて夜空のようにした。
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その後、屋上に柵を伝って行こうとしたのが失敗だった 足を滑らせ転落してしまった 昨日、未明中学生の◯◯さんが自身の学校で飛び降り自殺を... この学校では◯◯さんに対するイジメが... 先生やあいつらを困らせることが出来たかな? そうでないなら、私の命は... 死んでは何も残らない もっとみんなと笑い合ってみたかった もっと生きていたかった 描いた文字は「飛翔」 未来に羽ばたく私へのエール
- 完 -