俺は後悔の真っ只中にいた。 今まさに俺の両脚は、俺の後頭部、いや、首の後ろ側にガッチリと引っ掛けられている。そう、ヨガかなにかでよく見かけるあのポーズだ。 このポーズを試みた動機は、特にない。だが人間軽はずみな行動は控えるべきである。そして己の限界を計り違えると取り返しのつかないことになる。例えば俺のように3日間このヨガのようなポーズから脱け出せなくなる。 エクソダス、、、したい!
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しかし悪い事ばかりでもない。 俺は今まさにそれを感じていた。 普段はおっぱいのことを考えている俺だが、このポーズを始めてからずいぶんと心が穏やかになっている。 いまだってほら、目の前に素晴らしいお花畑が広がった。遠くに川が流れていて、船の先導らしき人がこっちに手を振って…… 「…ってあかんやん!死ぬやん!コレ死ぬやつやん!!」 なぜか関西弁でツッコミをいれてしまった。これは本格的にまずい。
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とにかく、このポーズから脱出だ。 3日間糞尿を垂れ流しながら考えたことだが… 汚くなってしまった 3日間☆さんたちと一緒にふんばって考えたんだが… まず、俺の家には訪ねてくる奴はいない。 一応自己紹介しておくと、俺は学生で、両親は俺の大切な春休みを利用し仲良く2人でグアムへ。俺はお留守番というわけだ。 俺はバイトなんかもやってないし、ケータイもこの間壊してしまったばかりで当然連絡は来ないだろう。
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この家が3日間物音一つ無い事を不審に思う様なご近所はいない。 両親が帰宅後に発見、てなとこだろう。それまで生きよう。生きれるかな。さっき川見えたけど。テレパシーで誰かに伝えようか‥なんてね。 「ガシャンッ!」 ‥‥!? 「ガラガラガラ。ドタッ。」 え?何だ?? 突然、窓を打ち破り50代半ば位の中肉中背のおっさんが侵入してきた。 「‥‥‥‥なっ!?」 俺の姿に怪しいおっさんは固まった。
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「いいところに!あなたちょっと!」 「ひっ、ひいぃぃっ!」 おっさんは尻餅をついた。その状態で後ずさり。 全く何を驚いている? 糞尿にまみれた俺に? こんなポーズの俺に? 空き巣に入ったら人がいたことに? 後ずさるおっさんに俺は尻で跳び手で床を蹴りながら懸命に近寄った。 「来るな…来ないでぇ…っ!」 おっさんは窓から逃げようとした。 逃がしてなるか。あなたは神の使いだ!我を助けたまえ!
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生への執着、死への恐れ。そういうのを通りこした感情で、おっさんの足に飛びついた。 絶対にこの機は逃さない!逃してたまるか! 何日もこんなポーズで、悪臭に満ち満ちた(部屋の中にいれば、いいかげん気が狂いそうになる。足もうっ血し、首も痛い。色んな意味でもう限界だった。 「待ってくれ、話を聞いてくれ!」 しかしおっさんは半狂乱になり、糞尿にまみれた俺の手を振りほどこうとしている。
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「ここ何日もまともな物食ってなかったんだ!出来心なんだ許してくれ!」 俺だって三日間もこの体制で飲まず食わずなんだ。このおっさんを逃したら…。 ん?三 日 間 も 飲 ま ず 食 わ ず ? 何故俺は喉も乾かず、腹も減らないんだ? まさかこのポーズに、世界の食糧問題を一気に解決させる鍵が…? 「おっさん腹減ってるんだろ?」 おっさんの動きが止まった。俺と目を合わせ ず、首を縦に振っている。
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俺はここ3日間の経緯を話して聞かせた。 「このポーズで出すもの出し切ったら、もう心も体も清らかになっちまって、腹も減らなくなるらしいんだ」 おっさんは黙っているが、逃げないところを見ると興味を持ったらしい。 「騙されたと思ってやってみなよ」 「…じゃ、試しに」 その場で胡座をかいたおっさんは、足を強引に首に引っ掛ける。 「いででででで」 どうにか成功。 「どうよ?」 「痛くてよく分からねえ…」
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「あっでもだんだんと…こここ心が洗われるぅ〜♪」 「でしょ?」 おっさんは恍惚の表情を浮かべた。 「なあ少年。思うんだがよ」 「なに?」 「いっそのこと、このポーズのまま生活するるっていうのはどうだ?」 「いやいや無理があるだろ」 「大丈夫さ!俺とお前なら!」 「…///」 こうして俺とおっさんの奇妙な生活が始まった。 数年後、このポーズが世界中の飢餓をなくすのだが それはまた別の話である。
- 完 -