俺の仕事は単純明快。 『人を殺すこと』だ。 おっと、悪く思わないでくれよ? しごと、なのだから。 何も自分の意思で殺してる訳じゃないし、罪悪感だって感じている。 しかし儲けがいいのだ。 1人殺せば100万円。 ハハッ、楽なお金稼ぎだろ? …まぁあれだな。 長話をしてても仕方ない。 早速『仕事』をこなしに行くか。
- 1 -
俺のターゲットに興味があるのか? 政治家、大企業の社長、ヤクザの組長…違う違う、そんなんじゃない。 連中はガードが堅いし、100万円でも割に合わない。 俺のターゲットは…ほうら、来た。 向こうから歩いてくる、グレーのスーツを着た、まあ見た目は真面目そうな会社員だな。 銃や刃物なんか使わないぜ。それじゃすぐに殺しだってバレるからな。 それらしく自然な感じで死んでもらう。 これが俺のやり方だ。
- 2 -
例えば、そうだな…… 今回の場合は、“自殺してもらう”としよう。 まずはヤツに接触を図る。当たり障りの無い世間話からな。 少し経ってから、とある話題を仄めかす。 「あんた、嫁さんと子供が2人いるんだっけな?」 ペース掴めばこっちのもんだ。あとは勝手に“死んでくれる”。 ったく、口先だけで人を殺すって楽じゃないんだぜ? ん?そういえばヤツについて話してなかったな。 ああ見えてヤツは……
- 3 -
一見は普通のサラリーマン。 だが奴は数年前、俺と同業の「殺し」を生業としていた男だ。 どういう理由で足を洗ったかは知らないが、奴の過去が今回の殺しの依頼に関係しているらしい。 ただ、噂に聞いただけだが、奴は相当のキレ者だったらしく、すごい数のしごとを、すげえやり方でこなしていたらしい。
- 4 -
まぁ、その内容は知ろうとは思わないがな。さて、そんなことを考えてるうちに決定的な言葉を言うときだ。 「昔やったこと覚えてるな?あれ、ばれ始めてるぞ」 ほら、今までの表情とは打って変わって、怯えてるのか険しい表情になった。 「そ、そんなはずないだろ!?あ、あれはきちんとばれずに…「いや、ばれ始めてる」 「なんだって…!?」 あともう一押しだ。
- 5 -
「被害者の遺族が捜査を依頼したらしくてな、僅かな遺留品の中から少しずつわかってきているらしい」 「犯人は男性だってのと、年齢層までしかわかってないらしいが…近辺に土地勘のある奴で、ってので絞り込まれるかもな」 青ざめていく、表情。
- 6 -
「そんな、馬鹿な・・・。あれは、あの仕事は、完璧だったはずだ。そうさ、そんなはずあるわけない。デタラメな事言うな‼ 何処の誰が何て言ったか知らないが、その仕事だけは、きっちり片を付けてある。」 「何を根拠に、そんなに自信たっぷりになれるんだよ。本当に、何のミスも起こして無いって言えるのか?」 (これで、決まりだな。相手の動揺を、誘い出し、自殺へと後押ししてやるだけ。いつも通りのシナリオ。)
- 7 -
「へへ、あんた死にそうな顔して…」 それが最後の言葉になるとは知らず、勝ち誇った薄笑いを浮かべて、私を恐喝していた男の頭が、横から吹っ飛ばされた。大口径のリボルバー。そのグリップを握っているのは、さっき私とこの男にコーヒーを運んできたウエイトレスだった。「まったく」 リボルバーをくるくる回しながら、「こいつは生態系てもんを知らんのかしら?どんな獣にも、そいつを狩る別の獣が存在するってーのに」
- 8 -
生態系の頂点に君臨し続けると危機感が薄れ、やがて頂点から追われることになる。この世界での危機感の欠如は即命取りなのだ。 「しかし、この程度で殺し屋が務まるとは、時代かね」 元殺し屋のサラリーマンは呆れ顔で動かなくなった男を見下ろしていた。 「どうでもいいことよ。あたしは報酬さえ貰えれば」 そう言った差し出されたウエイトレスの手に元殺し屋の男は100万を手渡した。 「毎度ありがとうございます」
- 完 -