かごめかごめ 籠の中の鳥は いつ何時で殺る 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面 だぁれ?
- 1 -
数日前から、一人でいるときにこの歌が頭の中に流れることがある。 その度に背後に人の気配を感じるのだが、振り返っても誰もいない。 その気配は日に日に近くなり、三日前に聞こえた時は、手を伸ばせば届きそうなほどだった。 私はどうしていいかもわからず、ノイローゼ気味になっていた。 そのことを友人に話すと神社に行くことを勧められので、早速訪ねることにしたのだが、その道中…… かごめかごめ
- 2 -
籠の中の鳥は いついつ出遣る 夜明けの番に 鶴と亀がすべった フッと、蝋燭が消えたように景色が消えた。 「…なに?」 声を上げたのは、そうしないと気が狂いそうだったから。 だって、おかしいじゃない。昼間、なのに。 と、その瞬間。 ヒタリ、と何かが首に触れた。 右の耳に、息がかかる。 「うしろのしょうめん、だぁーあれ?」
- 3 -
首に触れているそれは、氷のように冷たい。耳にかかる息は生臭く気持ち悪い。 人ではない何かが、右斜め後ろにいる。 首に触れていたそれの力が次第に強くなっていく。私の首の皮膚に食い込み、耳にかかる息が荒々しくなって──。 「うしろのしょうめん、だあれ?」 その声は耳元ではなく、私の頭の中に直接問いかけてきた。足が竦む。振り向けない。動けない。 声の出し方を忘れたかのように、口をパクパクさせて。
- 4 -
もうだめだと思った時、後ろから聞こえてきた。 “鎮守の神よ彼女を護り給え” 気付くと、元の場所にいた。 「大丈夫?」 荒い呼吸で応える 「…大丈夫、助けてくれてありがとう… さっき一体何があったの?あなたは誰?」一気に質問してしまったら、助けてくれた彼は困った顔をしたが、一問ずつ答えてくれた。 「僕の名前は神谷 、陰陽師の跡取り息子さ。後、君に1つ聞いていい?最近何か変な遊びをしなかった?」
- 5 -
「変な遊び……あっ」 ふと思い出した。あの歌が流れ始める数日前の記憶。学校で広まっていた噂話を試した日のことを。 かごめかごめ それは、人が人を囲う遊び。 でも、噂話では少し違った。 人が人形を囲う。 かごめかごめ 歌いながら人形の周りを回っていく。 うしろのしょうめん、だぁれ? それを合図に立ち止まり、繋いだ手を解く。 噂話は最後にこう言ってたかな。 正面の人には幸福を、後ろの人には……。
- 6 -
後ろの正面はかごめに囲まれる。 「そう。永遠にかごめの友達に」 神谷は私の言葉を継ぐ。 「かごめは一人なの?」 「いいや。君みたいな友達を囲んでは忘れ、永遠に孤独だと囲い続けるのさ」 「可哀想……」 「同情してはいけないよ。……ほら来た」 かごめかごめ 地面が歪み足をとられそうになる。 「いいかい、何が起きても……」 決して振り向いてはいけないよ うしろのしょうめん だあれ?
- 7 -
「うしろ…」 同情はしてはいけない。 なのに… 私は同情してしまった。 馬鹿なことしたものだと笑ってもいい。 私は、 何かに取り憑かれたかのように、首がゆっくりとゆっくりと後に…… かごめかごめ あぁ、可哀想に私がいるよ。 私が貴方をもう独りぼっちにしないわ。 さぁ、一緒にあの空へ…… 空が地面が全てが歪み、 何がなんなのか分からなくなるくらいとなった。 うしろのしょうめん
- 8 -
……………………………わたし? あーあ、振り向いちゃった もう1人の私が嬉しそうに笑う。 ふふふ、もうこれで1人じゃない。ずっと一緒、さみしくないわ。 そっか、もう寂しくないのね。ならいっか。 今日も私は歌う。もう1人の私と歌う。 かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつで殺る 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った 後ろの正面 だあれ?
- 完 -