正体を追い求めた少年の話
「僕は一体誰なの?」
その少年は尋ねた。自分の名前すら知らない様子に、黒いマントを羽織ったお婆さんは面倒臭そうに顔を顰めた。
「ねえ、僕は誰?」
「お前さんは空を飛ぶことが出来るかぇ?」
「空?僕は空なんか飛べないよ!」
「それじゃあ…魔法使いではなさそうねぇ」
去って行くお婆さんを眺めながら、その少年は未だ納得のいかない様子で他の誰かを探す。そこで見つけたのは小さなウサギだった。
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ウサギは昼食のラディッシュ片手に、近寄ってくる少年を見つめた。
「ねえ、僕は誰なの?」
小さなウサギは自分よりも大きな人間の子どもの質問に、首をかしげ、鼻をひくひくさせながら答えた。
「しらないよ。ぼくみたいに、耳がながいわけじゃないから、ウサギではないんじゃない?」
よかったらきみもどうぞ、と差し出すラディッシュを少年は丁重に断りながら、釈然としない顔で自分の長くない耳を触った。
- 2 -
少年は更に歩みを進めると、大きな川に差し掛かった。水面を覗くと一匹の魚が顔を出す。
「ねえ、僕は一体誰なの?」
少年の問いかけに、魚はエラをパクパクさせながら答えた。
「おまえ、およげるのか」
「泳いだことないから分かんない」
「じゃあ、やってみな」
少年は言われるがまま水に入る。魚の動きを真似ていると、水中で体が浮いた。
「わかった。およげたおまえは、さかなだ」
魚はきっぱりそう言った。
- 3 -
「僕は魚…」
少年はついに自分が誰なのか分かって喜んだ。そして前を泳ぐ魚を追いかけた。
でもいくら手足をバタつかせても前には進まない。水の中では息も出来ず魚はいつしかいなくなった。少年はまたひとりぼっち。
少年は泣いた。
「僕は魚じゃないの…?」
川から上がりとぼとぼと森を歩いていると大きなクマに出会った。
「ねえ、僕は一体誰なの?」
クマは答えた。
「おまえは毛皮がないからクマではないな」
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そして、クマは言う。
「お前、俺の仲間を狩っていったやつに似てるな」
「似てるモノ…?」
少年は、初めて言われた似てるモノを見てみたいと思った。でも何故か、似てるモノと言われた時、よくわからない不快感を感じた。
「この道を真っ直ぐに歩いて行ってみろよ。きっとお前の仲間が見つかるさ」
クマはそう言って立ち去った。
少年の中には、モヤモヤとしたよくわからない気持ちだけが残っていた。
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少年は一人で森を進む。
途中で湖に辿り着く。
そこではエルフが水浴びをしていた。
きれい…… きれい!!
「ねえ、僕は君と似てるモノ?」
キラキラ透ける羽を休めてエルフは少年に答える。
「どうかなあ」
君はボクみたいに小さくないし、耳も尖っていない。
「何より、羽が生えてないじゃないか」
少年は少しがっかりする。
「じゃあ、僕は誰なの?」
「さあ。それはとても大切な事かい?」
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「もちろん大切だよ!」
少年は頬を膨らませて叫んだ。
けれども、エルフに「それはどうして?」と訊かれても、何も言えなかった。
「だから、僕は誰なんだろう」
「僕は知らないよ。なんせ、今会ったばかりじゃないか」
エルフは利口だった。
「自分が誰かなんて、君が一番よく知ってることじゃないのかい?」
「でも知らないんだ」
こたえて、少年は項垂れた。
「君が知らないことを、君以外の誰かが知るわけないよ」
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お手上げだねとエルフは湖を離れてしまった。
少年はその場でうずくまる。「僕は……誰かな?」
戸惑うように揺れる水鏡。
不安げな顔がじっとこちらを見つめ返した。
ひとつ、ふたつ…よっつの眼で。
「──!?」
びっくりして振り返ると、すぐ後ろに天使がいた。
「いま何者でもないあなたが、納得の姿でいる場所があります。来なさい」
しばらく歩いて森を抜けると、あたり一面に石碑が並ぶ丘へ出た。
- 8 -
少年は石碑の一つに目が止まった。
「××××ここに眠る」
少年はそれが自分だと感じた
天使はいった
「君は今ここに同じ存在はいない。君は自分が何者か考えていたね。今君は『何でもない』。でも何かになることはできるよ。…私と同じ存在になりませんか?」
少年は虚空を見つめていた。そして…
「そうだ。僕はヒトだった。辛いけど素敵なヒトだった。これからはこの世界を守るよ」
少年は天使と、空へ旅立った。
- 完 -
作品情報
正体を追い求めた少年の話
#14657
- リレー期間
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6ヶ月